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第五話
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 引用文献を調べることの意味については既に述べましたが、これによって引用文献がどんな本なのかを知るという、ごく普通の効果が得られますが、必要な文献にどうやって辿り着くかをマスターするというのが、実はこの作業の目的です。私は学生時代に、引用文献が出てくると、まずは『大漢和辞典』『中国学芸大事典』を調べました。基本的にはこの両者で八割方は調べがつきます。人物名についてもまずはこれです。中国文学科などが設置されている大学図書館なら、この二つは必ず置いてあるでしょう。

 次に引用文献そのものですが、図書館の目録カード(私の時代はまだ手書きのカードでした…)で調べますが、その前に研究室の書架に並んでいた『四部備要』に当たることが多かったです。これは中国の代表的な古典作品を網羅した叢書(わかりやすい日本語で言えば「全集」?)で、もとにしている版本も比較的信の置けるものが多いので、とりあえず本文のチェックだけであれば非常に便利な叢書です。こういった叢書には他に『四部叢刊』があります。こちらは正編から三編まであり、かなり大部なものです。こういった叢書の中でもっとも権威があるのは、たぶん『四庫全書』でしょう。ただしこれは、私が学生時代には『四庫珍本』という主要作品のみをセレクトしたものしか影印出版されていませんでした。

 さて、引用文献を探す場合、なぜこういった叢書を当たるのかというと、まず単行本は図書館では所蔵されていないことが多いという理由が挙げられます。また単行本の場合、それは一つの版本と考えていいと思いますが、それがどういう版本なのかなど面倒な問題が絡んでくるというのも理由の一つです。引用文献に当たるのは、多くの場合その本文を確認すればいいわけですから、むしろ版本として身元のはっきりしている上述のような叢書を使う方が手っ取り早いのです。こういった叢書を利用するに当たり、どの叢書にどんな文献が収録されているかがわかっていないとなりませんが、それを検索するのに使うのが『中国叢書総録』です。これについても「暇つぶしエッセイ」をご覧ください。

 こういった叢書、歴史(=正史)を調べるのであれば、中華書局の標点本二十四史をまず調べます。十三経はこの十年くらい、やはり中華書局から「清人注疏」というシリーズが刊行されています(まだ未完)。諸子の書も「新編諸子集成」があります(これも未完)。文学関係も「中国古典文学叢書」というのシリーズがあります。これらは最近の出版物ですから、『中国叢書総録』では調べられませんが、最新の研究成果や注などが施され、それになんと言っても句読点が付いていますから読みやすいという利点があります(くどいようですが、句読点は間違っている場合もあります)。

 また最近の成果としては、古典作品の現代中国語訳がたくさん出ているということも挙げられます。中国文学や思想を学んでいる人は、多くが大学の一般教養で外国語に中国語を選択しているでしょう。でしたら、現代中国語訳を解釈の一助とすることも可能です。
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