いちばん幸せな思い出

《エクス・リブリス》の新刊『ブリス・モンタージュ』は、『断絶』のリン・マーの作品で、短篇集です。『断絶』がコロナの流行を予言したかのような作品として話題になりましたが、本作はそれとはまるで異なるテイストに感じられました。

と言いますか、これらの短篇をどう理解したらよいのか、異世界ものっぽくもあり、SFなのかしら、という感じもしましたし、それぞれの作品が繋がっているようでいて、まるで別次元の話だったり、とにかく一言言い表わすのが難しい短篇集でした。

そんな中、「北京ダック」という作品の中にリディア・デイヴィスの「一番幸せな思い出」という小品が引用されています。このリディア・デイヴィスの作品は、Uブックスの『サミュエル・ジョンソンが怒っている』に収録されていますので、ご興味のある方はこちらも是非手に取っていただけると嬉しいです。

それにしても、この『ブリス・モンタージュ』という作品、異郷に暮らす中国人の居心地の悪さというのがベースにあるものの、それを超えたものを感じます。別に中国人でなくともこういう気分になることを、こういう感情を抱えて生きている人って多いのだろうなあ、と思わせてくれる作品でした。そんな心のモヤモヤが発露されると、SFっぽかったり、異世界譚ぽかったりするのでしょうか。