ベルベル人
歴史・思想・文明
ジャン・セルヴィエ 著/私市正年、白谷望、野口舞子 訳
マグリブ(北アフリカ)の地に、太古の昔から住むベルベル人。その集団内部には、さまざまな文明圏からやって来た多様な集団が存在していた。地中海の諸帝国が崩壊した後のあらゆる生き残りでもあり、また飢饉によってイラン高原から移住して来た遊牧民のあらゆる痕跡でもある。さらに、諸民族の侵入、トルコ人の逃亡奴隷や、さまざまな出自の敗残者や海岸にたどり着いた遭難者たちが、肥沃な土地を求めてマグリブの地に相次いで到来した。やがて、ベルベル人は、数世紀にわたって、ローマには学者を、キリスト教には教会の司教を、イスラームの帝国には王朝を、イスラーム教には聖者を供給することになる。本書は、「日没の島」「ローマの穀倉」と呼ばれる地に住むベルベル人を、言語学、考古学、歴史学、民族学、社会学、建築学、芸術、食文化、服飾といった多様な側面から論じる。
詐欺師の楽園
ヴォルフガング・ヒルデスハイマー 著/小島衛 訳
金持ちで蒐集家のおばに引き取られたアントンは15歳で絵を描きはじめた。完成した絵は不謹慎な題材でおばの不興を買ったが、屋敷を訪れたローベルトおじは絵の勉強を続けるよう激励する。実はこのローベルトこそ、バルカン半島の某公国を巻き込み、17世紀バロック絵画の架空の巨匠をでっちあげて、世界中の美術館や蒐集家を手玉に取った天才詐欺師にして贋作画家だった。17歳になったアントンはおじの待つ公国へ向かったが、そこでは予想外の運命が彼を待っていた……。虚構と現実の境界を鋭く軽妙に突く諷刺小説であり、芸術小説でもある本書は、一部の幸福な読者によって秘かに偏愛されてきた。戦後ドイツ文学に異彩を放つゲオルク・ビューヒナー賞作家の知られざる傑作。