読書の輪が広がる?

《エクス・リブリス》の新刊『スモモの木の啓示』は、もうご覧になりましたでしょうか?

イラン・イスラム革命に翻弄される一家の姿を、13歳の少女バハールの語りで描く。亡命イラン人作家による魔術的リアリズムの傑作長篇。

という公式サイトの内容紹介にありますように、本作品の舞台はイランです。イスラム革命やホメイニ師といった言葉、単語は、あたしくらいの世代ですと辛うじてニュースで聞いて知っているものですが、若い方ですと興味を持っていない限りよくわからない世界の話かも知れません。

いや、単語を聞いたことがある程度のあたしだって知っているとはとても言えたものではありませんが、それでも海外小説を読むことの愉しみは、そういう知らない世界や国のことを知ることができる点です。醍醐味と言ってもよいでしょう。

ただ、海外小説が苦手という方の多くは、そういった未知の国、よくわからない地域のことをイメージできない、気候や風土、文化や歴史的な背景を知らないので、小説の内容が理解できない、といったことから海外小説を敬遠しがちだと思います。

もっともだと思います。ただし、そんな予備知識がなくたって、読み慣れてくると自然と愉しめるようになるものです。そして、むしろ知らないことが出てくると、そこに興味を覚えるものです。たとえば今回の『スモモの木の啓示』であれば、手近なところでは平凡社新書の『イラン』などがよい参考資料になるのではないでしょうか?

こんな風に、一冊の本から次への本へとリレーしていくのも読書の楽しみだと思うのですが、如何でしょう?

今日の配本(22/01/28)

戦争記念碑は物語る
第二次世界大戦の記憶に囚われて

キース・ロウ 著/田中直 訳

「第二次世界大戦の記念碑」といえば、日本では広島の原爆ドームや長崎の平和祈念像、東京の靖国神社、海外では中国の南京大虐殺記念館、ポーランドのアウシュヴィッツ博物館が有名だ。戦争記念碑は犠牲者や戦禍を追悼するもの、英雄やレジスタンス、犯罪を記憶に留めるもの、復興や平和を唱えるものとして、集合的記憶を形成し、継承する目的を有する。しかし近年、韓国の慰安婦像のように、論争を巻き起こしている戦争記念碑も増えている。本書は、英国の歴史家が世界の25の戦争記念碑を訪ね、「英雄」「犠牲者」「モンスター」「破壊」「再生」に分類し、歴史の表象とその変化や議論を考察する。

次なるパンデミックを防ぐ
反科学の時代におけるワクチン外交

ピーター・J・ホッテズ 著/詫摩佳代 訳

世界中がコロナ禍に覆われてすでに2年が経つ。パンデミックは突然発生したかにみえるが、実はそうでない。
本書によれば、2015年に感染症や熱帯病が増加に転じ始めたという。かつて撲滅したはずの病が、「人新世」という新たな時代のなかで復活しつつあった。その状況下、新型コロナウイルスが世界的に蔓延する事態になったのである。人間の活動が環境に未曾有の影響を与えるという人新世。戦争と政情不安、難民危機と都市化、貧困の深刻化、気候変動が感染症や熱帯病の温床になっている。危機を克服する鍵は、意外にも冷戦期に構築された米ソの「ワクチン外交」にある。本書では、対立が激化するなかでもポリオや天然痘を制圧した両国の科学者の姿が活写されている。しかし、冷戦期とは異なり、「反科学」が大きな足枷になっている。途上国だけでなく、いやむしろ先進国においてワクチンの接種をはじめ科学的知見を拒絶する動きが巨大メディア帝国を通じてばらまかれているのだ。人新世に迫りくる多種多様な感染症との闘いにいかに向き合うべきなのか? 世界的権威による処方箋!