ローベルト・ヴァルザーとの散策
カール・ゼーリヒ 著/ルカス・グローア、レト・ゾルク、ペーター・ウッツ 編/新本史斉 訳
カフカやゼーバルトなど、現在に至るまで数多の書き手を惹きつけてやまないドイツ語圏スイスの作家、ローベルト・ヴァルザー(1878-1956)が散歩中に心臓発作で亡くなった翌年に刊行された本書は、ヴァルザーについての基礎的な伝記資料として幾度も版を重ね、複数の言語に翻訳されてきた。
ヴァルザーは精神を病んで文学的に沈黙して以降、スイス東部ヘリザウの病院に暮らしていたが、彼のもとを定期的に訪れていた数少ない人物のひとりが、本書の著者、カール・ゼーリヒ(1894-1962)である。さまざまな作家の支援者として知られたゼーリヒは伝記作家でもあり、彼がヘリザウを起点に、ヴァルザーと連れ立って出かけていった散策の足跡を書きとめたのが、本書なのである。
トクヴィルと明治思想史
〈デモクラシー〉の発見と忘却
柳愛林 著
文明化を追い求めた明治日本は、翻訳書が果たした役割がいまと比較にならないぐらい大きかった。そして数多くの翻訳書が刊行されるなかで、新たな概念もたくさん生まれた。
本書では、アレクシ・ド・トクヴィルと『アメリカのデモクラシー』に焦点を当てて、その営為を明らかにする試みである。
FCバイエルンの軌跡
ナチズムと戦ったサッカーの歴史
ディートリヒ・シュルツェ=マルメリング 著/中村修 訳
ブンデスリーガ九連覇を果たし、最多優勝記録保持者(レコードマイスター)を誇るFCバイエルン・ミュンヘン。いまや強豪クラブチームとして勇名を轟かすが、歴史を築いた選手や指導者たちにユダヤ系の人びとが数多く存在したことはあまり知られていない。ドイツ選手権初制覇はユダヤ人会長とユダヤ人監督のもと成されたのだが、FCバイエルンを王座に導いたユダヤ人たちは〈敬われ、迫害され、忘却されて〉きた。
士官たちと紳士たち
誉れの剣Ⅱ
イーヴリン・ウォー 著/小山太一 訳
ガイ・クラウチバックが戦地アフリカから帰国すると、ロンドンはドイツ軍の空襲下にあった。新たに編成されたコマンド部隊に配属されて訓練地の島へ向かったガイは旧知の面々と再会し、同僚アイヴァ・クレア大尉の紳士らしい超然とした態度に感銘をおぼえる。やがて旅団長に復帰したリッチー=フック准将の下、部隊はイギリスを出発、ケープタウン経由でエジプトに到着するが、現地で合流するはずの旅団長は行方不明で、待機中の部隊の士気は下がるばかり。そしてついにガイの所属する隊にもクレタ島への出動命令が下った……。
夜の声
スティーヴン・ミルハウザー 著/柴田元幸 訳
人魚の死体が打ち寄せられた町の人々の熱狂と奇妙な憧れを描く「マーメイド・フィーバー」。夜中に階下の物音を聞きつけた妻が、隣で眠る夫を起こさずに泥棒を撃退しようとあれこれ煩悶する「妻と泥棒」。幽霊と共に生きる町を、奇異と自覚しつつもどこか誇らしげに語る「私たちの町の幽霊」。勝手知ったるはずの自分の町が開発熱でまるで迷宮のようになってしまう「近日開店」……。