着々と中国史が揃っていく

週末の晩はちょっと日本酒を嗜むことがあります。真冬でももっぱら冷酒で、燗をして飲む酒はほとんど買うことはありません。

このところめっきり冷え込んできましたから熱燗が旨い、という方も多いのでしょうが、あたしはやはり冷酒がよいです。そして、これまでは新潟の酒を飲むことが多かったのですが、この数年、新潟以外の酒にも手を伸ばしていましたが、久しぶりに新潟の酒を飲んでみました。

越乃景虎です。景虎ですから上杉謙信、となれば上越の酒かと思いきや、長岡の酒なんですね。今宵、賞味します。

さて、そんな週末に中公新書の新刊を落手しました。今月の新刊が何冊出たのか知りませんが、あたしはこの三点、『山縣有朋』『日蓮』『物語江南の歴史』です。

中公新書って、このところ中国史に力を入れているのでしょうか。かなり頻繁に中国史を扱った新刊が出ていますよね。どれもよく書けていて、もちろん読んでも面白いものばかりです。もう少したまってくれば、中公新書の中国史を揃えてフェアができそうな勢いです。

2023年11月18日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

孫子の件で少しばかり補足を

昨日のダイアリーで、中国の古典『孫子』について書きました。

その時に紹介した邦訳の一つ、岩波文庫の『孫子』ですが、実は改訂版が出ています。『新訂 孫子』です。最新の出土資料も使って改訂したものだそうです。中国古典はこの数十年、出土資料によって見直しが盛んですから、孫子もその例に漏れないということですね。

ちなみに、このダイアリーを読んでくださっている方であれば、これもご存じのことかと思いますが、ここまで書いてきた孫子とは呉孫子、呉の国に仕えた孫武のことであり、彼が著した『孫子』のことを指しています。しかしながら、出土文物の中にもう一つの『孫子』が発見されまして、それが『史記』の中にも書かれていた、斉に仕えた孫子、孫臏の著した『孫子』、通称『孫臏兵法』です。

こちらも出土文物の整理、校訂が進み、その成果が中国で刊行されています。わが家の書架にも二冊架蔵していますが、これは同じ書籍が装いを変えて刊行されたものになります。

2023年9月11日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

「ぎぶ」とは「GIVE」ではなく「魏武」のことです

講談社学術文庫から『魏武注孫子』が刊行されたので、当然のことながら購入しました。学術文庫では既に『孫子』が刊行されていますが、あえて「魏武注」にスポットをあてて一冊出すなんて、すごいです。

ちなみに『孫子』は、中国古典の中では『論語』『老子』に次いで知名度が高い作品だと思うので邦訳も何種類か刊行されています。そこで、架蔵している文庫版の邦訳を並べてみたのが一枚目の写真です。ちなみにこれらの邦訳、いまも版元在庫があるのかわかりません。

左上が中公文庫、その右の二冊はどちらも岩波文庫です。右下は講談社文庫、その左の二冊が今回話題にしている講談社学術文庫の二点です。単行本も加えたら『孫子』の邦訳はあと何種類かあると思いますが、さすがにすべては追い切れないので、架蔵しているのはこんなところです。

ところで、このダイアリーを読んでくださっている方の大部分には説明不要かと思いますが、ここまで何回か登場している「魏武」とは魏の武帝、つまり三国志の曹操のことです。長い長い中国史の中でもトップクラスの戦術家・戦略家でもある曹操は『孫子』を常に傍らに置いていたそうで、自身の体験に基づいて『孫子』に注を付けたものが『魏武注孫子』です。

曹操以外にも『孫子』に注を付けた人物は中国史上に何人もいまして、その主要な十一種類を修正したものが「十一家注孫子」で、『孫子』を読む場合にはこれがベースになっています。現代中国でも「十一家注孫子」は刊行されていまして、二枚目の写真にあるように、あたしは二種類を架蔵しています。

ところで「三国志」ファンなら、「曹操が孫子に注を付けたくらいなら、諸葛孔明だって孫子に注を付けていなかったのかしら?」と思うのではないでしょうか。あたしもそう思ったことがありました。劉備と出会う前にいくらでも時間はあったと思います。でも、劉備軍に加わってからはそんな時間は取れなかったでしょう。実践を踏まえて若いころに書いた孫子注を修正しようと考えていたとしても、それは果たせなかったでしょうね。

2023年9月10日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

ダブって買ったわけではありません

ちくま学芸文庫の『中国の城郭都市』を購入しました。こういうタイトルのものは、まずは買っておかないと、といつもの癖でポチッとしたわけですが、届いた書籍を見て、なんとなく見覚えがあるなあと感じました。

そこで同書をパラパラめくってみますと、かつて中公新書から刊行されたいたものだと書いてありました。というわけで、わが家の中公新書が並んでいる書架を見てみますと、案の定、中公新書版の『中国の城郭都市』がしっかり架蔵されておりました。

まあ、これくらいのことはしばしばあるので、「ミスった」とか、「買わなければよかった」といった後悔はまるでありません。文庫化にあたり一部の図版を変えたり、角道亮介氏の解説が付されたりと、まるまる同じではありませんので、これくらいはよしとしなければならないでしょう。

2023年9月9日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

阿片中毒になるには、阿片を買えるだけのお金を持っていないとならないそうです

どういう経緯があったのか、あたしなどにはわかりませんが、今日の朝日新聞朝刊の一面に満洲帝国のアヘンに関する記事が大きく紙面を割いて掲載されていました。

その記事のベースになっていると言ったら大袈裟でしょうし正確ではないと思いますが、いま満洲のアヘンに注目が集まっていることの一因に、記事の中にも取り上げられていたコミック『満洲アヘンスクワッド』があるのでしょう。「満洲」「アヘン」と聞いたら反応せずにはいられません。あたしもコミックの連載当初から気になっていて、単行本が出るたびに購入し愛読しておりました。

コミック単行本も既に10巻以上を数え、来月には14巻が刊行される予定です。もちろん購入します。そして、満洲のアヘン関連の本、それほど多くはないですが、何冊か架蔵しておりまして、その一冊が『大観園の解剖』です。

最初にタイトルだけを見たときは、「大観園だから『紅楼夢』に関係する本かな?」と思っていました。『紅楼夢』も興味があるので、いずれにせよ購入必至の本ではありましたが、よくよく見てみると満洲のアヘンに関する書籍でした。

そして満洲の阿片と言えば里見甫です。たぶん、里見甫の名前を知っている人は、現在の日本ではそれほど多くはないでしょうが、評伝がかつて刊行されていました。それが『其の逝く処を知らず』です。集英社から刊行され、その後集英社文庫でも刊行されました。右の写真は単行本ですが、集英社文庫版ももちろん架蔵しております。

この里見甫ですが、晩年にあたしの恩師がいろいろ話を聞いていたそうです。酒の席で、そんな思い出話をしてくれましたが、数回話を聞いたところで、里見甫が亡くなってしまい、最後まで話を聞けなかったそうです。

そんな恩師の著作が左の写真なのですが、表紙のカバー写真、左から二人目と数えてよいのでしょうか、白い中国服姿の男性が里見甫だそうです。写真を見る限り、とても満洲の阿片売買を牛耳っていた男とは思えないです。人は見かけによりませんね。

そう言えば、満洲ではないのですが、やはり阿片王と呼ばれた人に二反長音蔵がいますね。息子の二反長半が著した『戦争と日本阿片史 阿片王二反長音蔵の生涯』という本を古本屋で見つけて購入したのですが、これは学生時代の友人が中国近代史を専門としていたのであげてしまいました。

2023年8月17日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

正史を確認

つい数日前に読了した『親王殿下のパティシエール』の主人公はフランス人と清国人のハーフ、菓子職人のマリーですが、そのマリーを庇護する、もう一人の主人公が清朝・乾隆帝の皇子、永璘です。彼は実在する人物ですので、清朝の記録である『清史稿』を繙いてみました。

中国は王朝が代わると、次の王朝が自身の正統性を示すために先代王朝の歴史をまとめるのが伝統です。そのために歴代王朝は自身の歴史をしっかりと記録して残しておき、それを利用して次の王朝が正史にまとめるのです。

清朝が滅びた後も中華民国がその事業を継承し、あたしが学生のころに『清史稿』が完成、刊行されました。手元にあるのは中華書局の点校本で全48冊になります。いずれこれをベースとして『清史』が刊行されるのでしょうが、そんなニュースは聞こえてきませんね。そもそも作業は続いているのでしょうか。

それはさておき、その永璘の伝記は「列伝八」に載っています。該当部分が二枚目の写真です。たったこれだけです。第十七皇子というのはそのとおりで、乾隆54年、つまり1789年、フランス革命の年に貝勒に封じられたとあります。その後、嘉慶帝が即位、乾隆帝が崩御して親政が始まった嘉慶4年に郡王に報じられたというのも『親王殿下のパティシエール』最終巻に載っていました。

そして和珅の誅殺を受けて、その屋敷を賜ったことも書かれています。そして嘉慶25年に急な病となり、皇帝が見舞い、郡王から親王へ位が上がったのですが、その甲斐もなく亡くなってしまいました。1820年のことで、兄の嘉慶帝も同じ年に亡くなっています。

『清史稿』には生年が書かれていませんし、マリーと出会うことになる洋行についても何も書かれていません。乾隆帝の本紀も見てみましたが、王子をフランスへ派遣したという記事を見つけることはできませんでした。あたしの探し方は粗かったのかも知れませんので、これは引き続き調査してみたいと思います。

2023年8月11日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

中高生は本を読まない?

「若者の読書離れ」というウソ 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか』読了。あたしも世間の言説に惑わされて、今の子供は本を読まなくなっていると思い混んでいました。

でも著者によると、小中学生は別として、昔から高校生以上は大人も含めて二人に一人はほとんど本を読まないのですね。電車の中を見ると、この十年、雑誌や新聞、そして本を読んでいる人がめっきり減って、みんなスマホをみるようになっています。そういうところだけを見ると、本離れ、活字離れは信憑性が高いような気もしますけど。まあ、この本で著者は「活字離れ」については論評していませんので、活字離れと本離れ、雑誌離れを一緒くたにしてはいけませんね。

さて、本書で分析されている中高生の読書傾向、いろいろと考えさせられました。振り返ってあたしの中高生時代を振り返ってみますと、たぶん考えていたことはいまどきの中高生と大差ないと思います。悩んでいたことや抱えていた葛藤なども、たぶん似たり寄ったりだと思います。ただ、あたしはいまどきの中高生が読んでいるような本には向かわなかっただけです。

2023年7月18日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

近所で探すのが一番よいのでしょうか?

わが家の書架、このダイアリーでも何度かご紹介していますね。最近は主に文庫や新書の棚を中心にとって載せていたような気もしますが、わが家の書架で半分近いスペースを占めているのが中国からの輸入書、いわゆる中文書です。「中文書」と書いて「ちゅうぶんしょ」と読みます。

右の写真は、中国史をやる人にとっては基本中の基本、中華書局の点校本二十四史(評点本二十四史)です。『史記』から『清史稿』まで、いくつかは『人名索引』や『地名索引』も架蔵しています。中国史のみならず、中国学を学ぶ人なら必ずお世話になる叢書ですね。

歴史関係では、この他に『資治通鑑』もありますし、『武英殿本二十四史』の影印本も架蔵しています。『国語』や『戦国策』なども注釈本も含めいくつか持っていますし、あたしの専攻が秦漢時代だったので、『史記』については何種類もの現代中国語訳や注釈本を架蔵しています。

そして思想史を専門としていたので、諸子百家に関するものも数多く架蔵していまして、そこからの流れで漢代思想、魏晋玄学などもある程度はフォローしています。

思想と言えば外せないのは『十三経注疏』で、これも古典の影印本から「清人十三経注疏」なども一通り揃えています。『皇清経解』や『通志堂経解』も架蔵しているので、儒学関係のたいていの文献は自宅にいながらにして原典に当たることができます。

もちろん工具書類も諸橋『大漢和辞典』や『中国学芸大事典』もありますし、学習用の漢和辞典も10種類くらいは所持しているはずです。

と、こんな風に本をたくさん持っていることを自慢したいわけではなく、そろそろこれらの本をどうしたらよいのかを本気で考えないといけない年齢にさしかかったのではないかと最近思っているのです。

そもそもこんなに本を自宅に持つようになったのには理由がありまして、学生時代、特に一年生、二年生の時は大学まで片道一時間半かかっていたので、図書館で遅くまで調べものをするには不便でしたし、その当時の一、二年生キャンパスには研究室もなく、図書館の蔵書も調べものをするには貧弱すぎました。となると必然的に自宅である程度の調べものはできるようにしないと話にならない、というわけで本が徐々に増えていってしまったのです。まあ、大学院まで進む学生であれば、これくらいは普通のボリュームだと思うのですが……

で、話は戻ってこれらの中文書、『大漢和辞典』などは日本の書籍ですが、これらを引っくるめて中国関係の書籍をどうしたらよいものでしょう? 近所に中国史を学んでいる大学生、あるいはこれから学ぼうと考えている高校生は住んでいないものでしょうか? いたら全部差し上げたいと思っているのです。メルカリに売っても、どうせ二束三文にしかならないでしょうし、だったら有効活用してくれる人に譲った方が本も喜ぶのではないかと思うのですよね。

2023年7月10日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

もっともっと紹介されますように!

中国の作家・閻連科の新刊が刊行されました。『四書』です。

邦訳が刊行されるのは何作目になるのでしょう。現代の中国作家の中では多い方だとは思います。たくさん邦訳が出るのは嬉しいですね。もちろん他の作家の作品も読みたいですが……

ただ、今回の新刊にはちょっと違和感を感じました、「あれっ、河出書房から出るんじゃないの?」と。これまで閻連科の作品は、ほぼすべて河出書房新社から刊行されていますので、当然新刊も河出から出たものだと思ったのですが、よくよく見てみると今回は岩波書店から刊行されたのです。

こういうところが気になってしまうのは、やはりこの業界の人間だからでしょうか。そう言えば、訳者もこれまでは谷川毅さんから泉京鹿さんだったのが、今回は桑島道夫さんです。このあたりも気になる点の一つです。でも、そんなことはどうでもよいのです。閻連科の作品がまた邦訳されたということが肝心なのです。

この調子で、いろいろな出版社から中国作品が紹介されることを期待しています。じゃあ、誰を邦訳してほしいのかと問われると、具体的な名前はありませんが、女性作家や少数民族出身の作家、若手の作家など邦訳を読みたい作家はたくさんいますね。

2023年2月5日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

最近の文庫は……

角川ソフィア文庫から『漢文の語法』が刊行されました。

漢文と聞いたら職業柄(?)放ってはおけません。買ってしまいました。ただ、このタイトル、聞いたことがありますし見覚えがあります。

というわけで、自宅の書架を探してみたら見つかりました、親本が。もちろん角川書店の刊行物です。あたしが架蔵していたのは初版ではなく、昭和63年の再版でしたが、紛れもなく親本です。写真の右側の本がそれです。

ところで、現在も受験参考としての漢文の学参は刊行されていると思いますが、あたしが学生のころは、このように一見すると受験参考書ではなく、漢文を愛好する人、学ぶ人のための漢文語法、漢文訓読を扱った書籍が少なからず発売されていました。まだまだ古典に力があった時代だったのでしょうか?

2023年1月21日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー