原点回帰?

ミネルヴァ書房から刊行された『韓非子入門』を買ってみました。なんといっても「韓非子」は、わが心のバイブルですから、新刊が出るとどうしても食指が動いてしまいます。

そもそも、どうして韓非子なのかと言えば、かつて「履歴書代わりの暇つぶしエッセイ」の第二回で書きました。あたしと中国思想との出逢いが『韓非子』だったのです。

その後、大学四年間や大学院修士二年間で、韓非子とは付かず離れず、だいだいそんなような時代を専門に取り組んでいました。韓非子があたしのいまの人格を作り上げたと言っても過言ではないくらい影響を与えられた本です。

学生時代もとうの昔に終わり、それでもまた改めて韓非子と向き合ってみるのもよいのではないかと考えた次第です。そう言えば、二年ほど前に講談社学術文庫でも『韓非子 全現代語訳』が刊行されていましたね。もちろん買っています。やはり忘れられない一書です。

話は変わって、そろそろ涼しくなってきたので、晩酌に缶チューハイという気温でもないだろうと思い、新たに日本酒を購入しました。それが二枚目の写真です。

以前にもこのダイアリーでご紹介したことのある石川県の酒「萬歳樂」です。純米大吟醸とひやおろし、それぞれ720mlを一本ずつです。寒い季節とはいえ、あたしの場合、日本酒は冷酒です。燗は好きではありません。好きな酒が「冷やしてお飲みください」というものばかりというのもありますが。

2024年10月8日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

ただの翻訳ではないみたい?

国書刊行会から『北京古建築』という上下本が刊行されています。

 

A4判ですから、まあまあの大きさで、各巻本体15000円という高価格です。オールカラー、上下で478頁という立派な一冊、否、二冊です。

欲しいなあと思うものの、国書刊行会のウェブサイトを見ますと、「王南著『北京古建築』(中国建築工業出版社、2015年)の日本語版である」とありますので、写真や図版がメインであれば、原書の方を買った方が安いかなと思いました。そこで東方書店のウェブサイトで原書を検索してみますと、上下巻それぞれ21890円、つまり本体19900円という値段が付いていました。なんと原書の方が高価格です。ただし現在、在庫はないようです。

輸入書は送料などもかかっているので、原価を為替レートで換算した金額よりも多少高くなることは理解しています。これを中国国内で購入したらいくらなのか(何元なのか)はわかりませんが、翻訳よりも高くなるというのはちょっと不思議です。

そこでもう一度国書刊行会のウェブページを見ますと

原著は全16章からなるが、本書はこのうち序論、紫禁城、壇廟・儒学、宮廷庭園、合院民居、仏教寺院、仏塔、道観とモスクという、とりわけ日本の読者が興味をもつと思われる8章を抜粋して再編集し、日本語へ翻訳したものである。

と書いてあります。つまり純粋な翻訳書ではなく、日本独自の再編集版なのですね。東方書店のサイトに出ている原書は上巻が445頁、下巻が405頁と日本語版の倍のページ数があります。それならば翻訳版よりも高いのも納得できるというものです。

2024年9月30日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

全3巻なのかしら?

最近、矢継ぎ早に刊行された早川書房の《台湾文学コレクション》、あたしも購入いたしました。

詳しいことはわかりませんが、早川書房のこのコレクションは全三巻で完結なのでしょうか? 本を開いても特にそのあたりのことは何も書いていませんが、どうなのでしょうね。

あたしが全三巻だと思う理由は、この子暮れクション以前に刊行されていた作品社の《台湾文学ブックカフェ》、書誌侃侃房の《現代台湾文学選》、いずれもが全三巻だからです。いや、もしかしたらいずれも全三巻と謳っているわけではなく、続刊の構想が進んでいるのかも知れません。

ただ、現時点では第3巻まで刊行されたところで刊行はストップしています。台湾ものって全三巻がトレンドなのでしょうか。まあ、中国史では「3」というのは鼎を連想させますし、三国時代もありますから、なんとなくバランスが取れているイメージはありますけれど……

2024年8月5日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

中国の神様とか信仰とか

あたしが学生時代に中国思想や中国史を学んでいたことは、このダイアリーを読んでくださっている方であればご存じかと思います。もう学問を離れてかなりの年月が経ちましたので、学んでいましたと言うこともおこがましいくらいですが、それでも中国関係の本は買ってしまいますし、読んでいます。

そんな大学時代の先輩が本を出されたので、早速購入しました。それが写真の左側、吉川弘文館の『中国の信仰世界と道教』です。学生時代も道教とか、そのあたりを専門にしていたのを覚えています。

かつて平凡社新書で『中国の神さま』を出して以来、中国の宗教、特に道教を中心に研究をされていて、ブレずにその道を究めていらっしゃるのだなあと、改めて頭が下がります。

中国は儒教社会と言われますが、それは知識人社会の話であって、庶民レベルでは道教だという話も学生時代に聞かせてもらいました。とにかくパワフルで、エネルギッシュな、そしてとんでもなくデキる先輩だったというのが、あたしの印象です。

2024年5月25日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

岩波文庫の復刊を求む(笑)

中公新書から『元朝秘史』が刊行されました。この方面に詳しい方ならご存じのことと思いますが、中公新書には、以前も『元朝秘史』というタイトルの本が出ておりました。

著者が異なりますので、以前のものの改訂版ではなく、全く新しいものとして刊行されたわけです。となると、当然のことながら、以前のタイトルは既に絶版になっているのでしょうね、調べたわけではありませんが……

そして、実は中公新書だけでなく、岩波新書にも『元朝秘史』というタイトルがあるのです。ちなみに、中公新書の以前のものは岩村忍著、岩波新書は小澤重男著という名だたる大家が著したものです。

今回刊行されたものも含め、三点の新書『元朝秘史』は、『元朝秘史』の解説本、入門書です。原書である『元朝秘史』は出ていないのかと言いますと、さすがです、岩波文庫から上下本で出ています。否、出ていたと言った方がよいでしょう。現在は品切れになっているようです。

この機会に、岩波文庫の『元朝秘史』も復刊されないものでしょうか。

2024年5月23日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

名著の宝庫?

文庫本で古典の翻訳と言いますと、やはり岩波文庫が充実していますし、他の追随を許さない圧倒的な量を誇っています。ただ中国古典について言えば、講談社の学術文庫も負けてはいません。そして知る人は知る、筑摩書房も中国古典の翻訳については、侮れないラインナップを誇っているレーベルだと思います。

古典の翻訳を出している文庫というのは、その周辺のものも充実していまして、ちょっとした研究書や概説書などが文庫本で手に入ったりするものです。今回落手したのはちくま学芸文庫の『中国古典小説史』です。

ちなみに、本書でも最初に触れていますが、中国古典における「小説」はnovelの訳語としての小説ではありません。「大説」に対する「小説」なのです。つまりは優れた人物を指す大人(たいじん)に対するつまらない人間(しょうじん)と同じような関係です。

ところで、この『中国古典小説史』というタイトルを見ると、中国学の専門家であれば、魯迅の『中国小説史略』を思い出すのではないでしょうか。少なくとも、あたしはすぐに思い出しました。

そして、その『中国小説史略』もちくま学芸文庫に翻訳があるのですよね。さすが筑摩書房です。もちろん、そちらも架蔵しています。

そもそも筑摩書房は、ちくま学芸文庫ではなくちくま文庫ですが、そちらに『魯迅文集』(全6巻)も収録されているのですよね。筑摩書房はもともと全集を手広く刊行していて、それを改めて文庫化しているものが多いわけですが、そういう過去の優良な資産が豊富な出版社というのはよいものですね。

2024年4月13日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

名著・名作再発見!

今回のダイアリーのタイトルは岩波文庫のフェアのタイトルから採りました。正確に書くならば「名著・名作再発見! 小さな一冊を楽しもう!」だそうです。文庫だから「小さな一冊」なんですね。

それはさておき、その岩波文庫の4月の新刊に『孝経・曾子』があるのを見つけました。この数年、否、十数年、店頭で見かけることはないですが、岩波文庫には既に『孝経・曾子』があるはずです。

一枚目の写真がそれで、わが家に架蔵している一冊です。あたしが学生のころも新刊では手に入らず古書肆で購入したような記憶があります。となると市場から消えて十数年どころか、数十年は消えていたということになりますよね。

で、今回刊行される『孝経・曾子』ですが、訳者が異なります。でも岩波文庫としての番号は同じ「211-1」らしいです。ということはISBNも変わらないのでしょうか。訳者が異なるので別な本だと思いますが、同じ本の重版という扱いなのでしょうか。

とはいえ、岩波文庫ではかつても同じような現象がありました。

二枚目の写真は、今回の岩波文庫フェアにもラインナップされている中国の古典『老子』です。これは文庫の番号が「205-1」です。

『老子』ほど知られた古典ですから、岩波文庫に収録されていないわけがなく、こちらの刊行よりはるか昔、岩波文庫には『老子』が存在していました。

それが三枚目の写真です。『老子』です。こちらも番号は同じ「205-1」ですが、訳者が異なるのです。つまり今月の『孝経・曾子』と同じことが以前にもあったわけです。

いわゆる古典の旧訳と新訳ということで、時代に合わせて言葉遣いも変わるわけですから、翻訳も変化して当然です。訳者を代えて、新しく出し直すのはよいことだと思います。

もちろん言葉遣いだけでなく、古典研究も進んでいるので、それらを踏まえた訳文になるのも当然のことでしょう。旧訳と新訳でどう変わったのかを比べるのも楽しい作業です。とはいえ(この『老子』や『孝経・曾子』がそうだというわけではなく)、旧訳の方が好きだという人もいますね。あたしは旧訳と新訳を読み比べて、それぞれのよいところを味わえばよいと思うだけですが。

2024年4月6日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

東交民巷

本日は懐かしい話を。

新刊の『清朝滅亡』を寝床で読んでいまして、ちょうど半分くらい読みおわりました。義和団の乱で各国公使たちが北京の東交民巷地区に立てこもり天津からの救出部隊を待っている状況です。

北京籠城と言えば、東洋文庫『北京籠城・北京籠城日記』ですよね。ちなみに平凡社のウェブサイトでは「籠城」ではなく「篭城」と表記されていますが、本に印刷されているのは「籠城」の方です。

話は戻って、東交民巷。当時の公使館街です。あたしが最後に訪中したのは2007年で、北京五輪前ですし、16年も前になりますから、北京の街もまるっきり様変わりしていると思います。ですから、あくまであたしが最後に訪中したころの話ですが、そのころの東交民巷は、まだ公使館街の面影を残すような建物がいくつか残っていました。下町の風情もありましたが、それでも落ち着いたたたずまいを感じさせる地域だと感じました。

あたしが20年前くらいに、しばしば訪中していた(隔年で一回くらいですが……)ころに泊まっていたのは崇文門に建つ新僑飯店でした。表通りは前門へ向かう大通りと東単へ向かう大通りが交わる大きな交差点で、地下鉄の崇文門駅が交差点の地下にありました。そして、そんな新僑飯店の裏通りが東交民巷だったのです。ホテルを出て、東交民巷をそぞろ歩いて天安門広場に向かったことが何度もありますし、王府井で買い物をした帰りも、東交民巷まで南下して、東交民巷を歩いてホテルへ戻ったものです。なので、とても馴染み深い通りです。

もちろん義和団のころに、このあたりに外国人居住者が立てこもっていたという歴史は知っていましたから、そんな時代に思いを馳せながら歩いたものです。外国人と言えば、『北京のモリソン』のジョージ・アーネスト・モリソンもちょうど北京にいたころですね。このモリソンの蔵書が、東京の六義園に程近い東洋文庫に所蔵されているというのも、先程の平凡社東洋文庫と繋がるような、繋がらないような……(汗)

さて当時の思い出話をしますと、その新僑飯店の斜向かいにも哈徳門飯店というホテルが建っていて、そこに北京ダックで有名な便宜坊が入っていました。新僑飯店に泊まっているときは滞在中に一度はダックを食べに行ったものです。

また北京にも日本的なスーパーマーケットが増えてきたのもこの頃で、崇文門の交差点を南下するとすぐ右手に崇文門菜市場があり、これはいかにも昔ながらの北京の庶民が使うマーケットという感じでしたが、さらに南下すると真新しい新世界商場という巨大ショッピングモールがありました。ホテルの部屋で飲むミネラルウォーターや室内履きにしていたカンフーシューズはここで調達していました。マクドナルドや吉野家も当時は入っていたと記憶していますし、便宜坊の支店もありました。

あたしが体験した北京はそんな感じで北京五輪前で止まったままです。いまはまるっきり知らない町だと思えるほど変わってしまっているのでしょう。

話は『清朝滅亡』に戻りますが、いまのところ主人公は西太后です。時の皇帝は光緒帝です。まだしばらくは登場し続けるでしょうが、この二人は相継いで亡くなるのですよね。そして中国語辞典で著名な井上翠『松濤自述』を読みますと、井上翠が北京を訪れたときに光緒帝と西太后の葬儀が行なわれていたとのことです。

そんな井上翠の最晩年、謦咳接したのが『白水社中国語辞典』の伊地智善継先生で、その伊地智先生に、あたしも晩年の十年、お世話になりました。そう思うと、この西太后の時代、北京籠城のころが一気に身近に感じられます。

最後に、東交民巷は文字面からもわかると思いますが、天安門の東側にある路地ですが、天安門の西側には対になる西交民巷という路地もあります。あたしはそちらの通りも歩いてみたこともあるのですが、東交民巷に比べると情緒というか趣が感じられない通りだったという印象です。

2024年1月21日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

日本史とも大いに関わる時代です

辛亥革命なんて聞いても、中国史に興味を持っている人以外にはピンと来ないのかも知れません。でも、清朝末期には明治維新の日本に倣えということで、多くの人材が日本を訪れています。当然のことながら、日本の政治家や実業家との交流も増えてきます。

そして清朝が、二千年の皇帝制度が崩壊し、中華民国が誕生するわけですが、中華民国一年は日本の大正元年に相当します。中華民国と大正は年代が同じなので、なんとなく親近感が湧いてきませんか。そんな時代を扱った『清朝滅亡』がまもなく配本になります。

著者である杉山祐之さんは、これまで『覇王と革命』『張作霖』と、この時代を扱った作品を出してきて、本書が三作目になります。いずれも読み応えたっぷりです。上述したように、中国史の本ではありますが、日本がちょこちょこ顔を出す時代でもありますので、日本の近代史に興味がある方にも十分楽しんでいただける一冊、否、三冊となっております。

2024年1月11日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

世界最大級の……

わが家の書架には『『大漢和辞典』を読む』という本が並んでいますが、そのお仲間が登場です。

日本が世界に誇る『大漢和辞典』に関する書籍が刊行されました。『『大漢和辞典』の百年』です。1955年の刊行ですから、100年まではちょっと時間があります。

でも、これだけの辞典ですから、作業を始めたときから数えれば、100年以上の月日が経っているのではないでしょうか。あたしも勤務先で『中国語辞典』の編集に少しだけ携わったので、刊行までの準備期間と言いますか、助走期間と言いますか、とにかくメモを取り、カードを作り始めるところからの、気の遠くなるような作業については多少の理解があるつもりです。

あたしが学生のころは、紺色っぽい装丁ではなく、白地に金文字、少し判型も大きくなった版が刊行を開始したので、あたしは毎月の刊行のたびに、アルバイト代をつぎ込んで購入していました。それが左の写真です。

この版は十二巻+索引まで完結した後に、補巻と語彙索引が刊行されまして、もちろんそれも揃っています。当時はまさしく世界最大の漢和辞典だったと思います。ただ、その後、中国から『漢語大字典』『漢語大詞典』が相継いで刊行され、何を以て世界最大と呼ぶのかは議論の分かれるところではありますが、「世界最大」ではなく「世界最大級」と称するようになったと記憶しています。中国の二つの辞典は、そしてたぶんその後にもいくつか中国で大型の辞典が刊行されていると思いますが、いずれも『大漢和辞典』をものすごく意識して作られていたはずです。

2023年11月30日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー