お久しぶりの?

ノーベル賞各賞の授賞式です。新聞やテレビでは被団協をメインで扱っているのは致し方ないことですが、あたしの働く業界ではやはり文学賞がメインです。

そういうタイミングですので、ずいぶんと久しぶりに朝日新聞のサンヤツ広告を、今朝の朝刊に出しました。一面下の一番右端です。著者の中には、この位置に自著の広告が載るのを楽しみにしている人がいるとか、いないとか、そんな噂を聞いたことがあります。

というわけで、朝日新聞を購読している方、あるいは職場や図書館などで朝日新聞を閲覧できる方、是非とも本日の朝日新聞一面下をご覧ください。

そして、同じことを考えているお仲間の出版社がお隣に広告を出していました。晶文社さんのハン・ガン作品『ギリシャ語の時間』の広告です。ハン・ガンの邦訳を出しているところとなると、あとはクオンさん、河出書房新社さんくらいですかね。授賞式を受け、年末年始の読書にハン・ガン作品は如何でしょうか?

ぬの力

本日は体育の日ならぬ、スポーツの日でお休みです。ハッピーマンデーが施行されてから三連休が増えましたが、今年特に三連休が多いと思うのは気のせいでしょうか。

そんな祝日の朝刊、朝日新聞の「折々のことば」に岸本佐知子さんが登場していました。筑摩書房から刊行されている『ひみつのしつもん』から引用されていました。岸本さんが「ぬの力」について書かれています。

感覚としては新潮新書の『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』に近いものを感じますが、確かに「ぬ」は独特な空気をまとっているような気がしますね。でも「ぬり絵」「ぬいぐるみ」なんていう、ほのぼのした言葉もあるので、岸本さん的に考えるのであれば、この「ぬ」は「ヌテラ」「ぬめり」とは別系統の「ぬ」なのかもしれません。

ちなみに、同欄で引用された『ひみつのしつもん』はこちらです。この装丁、皆さんにはお月様に見えますか、それとも目玉焼きに見えますか。

ところで二枚目の写真は2019年に刊行された単行本の方ですが、同書はほぼ一年前の2023年11月に文庫化されています。それが三枚目の写真です。装丁は単行本と変わっていないですね。

帯にも書かれているとおり、単行本から増補されているということで、文庫版も架蔵しております。やはりお月様なのか、目玉焼きなのか、気分によってどちらにも見えてきます。正解はなんなのでしょう。

話は戻って、同書の「ぬの力」の項ですが、そこにはこんなイラストが載っています。

だいいち「ぬ」という形からして何となく怪しい。見れば見るほど、エイリアンが息を殺して体を丸め、「め」に擬態している姿に思えてくる。

という本文をイラストで表わしたものでしょう。そう言えば、何の本で読んだのか忘れましたが、ひらがなを知らない外国人に「ぬ」の字を見せると「猫が体を丸めている姿」に見えるとのことです。

エイリアンか猫か、もっと外国の人にアンケートを取ってみたくなります。ただ、その場合「ぬ」で取るべきなのか、「ヌ」で取るべきなのか、どちらでしょう?

予想どおりだったのでしょうか?

昨晩のノーベル文学賞の発表。韓国のハン・ガンさんが受賞しました。邦訳が多数ある作家の受賞だったので、不景気と言われて久しい出版界にとっては明るいニュースの着弾です。

ノーベル文学賞は作品に対して与えられるのではなく、作家本人に対する賞ですので、どの作品が受賞作というわけではありません。あたしの勤務先も二点ほど刊行しているので、今朝は電話が鳴りっぱなし、ファクスもジャンジャン届くし、注文メールも何通も受信しました。こんなこと、何年ぶりでしょう。まさに嵐でした。

ちなみに、邦訳が多数出ていると書きましたが、架蔵しているのはご覧の作品です。6点ですね。所持していないのは数点だと思います。

そして、あたしがなど言うのはおこがましいですが、やはりハン・ガンは面白いですし、いろいろと考えさせられる物語です。韓国の歴史を知らなくても十分楽しめますが、読むともっと知りたくなります。韓国って近くて遠い国だと感じます。

ところで、ハン・ガン作品、あたしの勤務先では2作品を刊行していますが、ノーベル賞発表前、社内では中国の残雪が取ってくれたらいいなあ、取ったら即重版だ、などと話題になっていました。残雪作品も三つほど出していますので。

社内でそんなことが話題になっていたときに、ふと見た英国のオッズでハン・ガンがランクインしていたのに気づき、「残雪だけではなく、ハン・ガンも重版の準備をしておこう」と呼びかけていたのです。結果的に、あたしのこの注意喚起が功を奏し、なんかあたしが予想屋みたいな感じになってしまいました(笑)。

別にそんなつもりはありませんが、よい方に転んでくれてラッキーでした。そんなあたしは、ハン・ガンではなく、ちくま学芸文庫の新刊二点を買っておりました。

台湾で鉄道に乗ろう!

今朝の朝日新聞の読書欄、最後のページに『台湾鉄道』が紹介されていました。紹介してくれたのは、長島有里枝さんです。コメントの最後の

鉄道好きの息子と久々、一緒に本を読めたのも、楽しかった。

という一文が素敵です。

台湾と聞くと、人によって思い浮かぶものはさまざまでしょうが、台北から南に延びる台湾新幹線を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。鉄道好きの方であれば、長島さんも書いているように鉄道で台湾を一周したい、したという方もいると思います。確かに海外へ行って、現地の列車に乗るのは旅情を掻き立ててくれるものです。

あたしの勤務先から出ている『神秘列車』も台湾の甘耀明さんの短篇集で、カバー装画のとおり列車が登場する作品もあります。この短篇集、あたしはとても好きです。非常に美しい作品ばかりで、読後感も充実感にあふれたものです。

新幹線のような高速鉄道もよいですが、煙を吐き出す蒸気機関車も風情があってよいものです。ただ、あたしはいまだに蒸気機関車が牽引する列車には乗ったことがありません。日本にも各地に観光列車としてSLを走らせているところはありますが、なぜか縁がなくてのったことがないんです。たぶん乗らずに一生を終えるのだと思います。

THE 100 BEST BOOKS OF THE 21ST CENTURY

既に日本でも話題にしている方が大勢いますが、ニューヨークタイムズのサイトに「THE 100 BEST BOOKS OF THE 21ST CENTURY」が掲載されています。サイトには

As voted on by 503 novelists, nonfiction writers, poets, critics and other book lovers — with a little help from the staff of The New York Times Book Review.

と書いてあります。503名の方による投票で選ばれた100冊です。このリストの100冊の中に、あたしの勤務先から邦訳が出ている書籍が何点か含まれていますので、ご紹介します。

Tree of Smoke / 煙の樹
The Collected Stories of Lydia Davis
10:04 / 10:04
The Looming Tower / 倒壊する巨塔
H Is for Hawk / オはオオタカのオ
The Savage Detectives / 野生の探偵たち
Austerlitz / アウステルリッツ
2666 / 2666
The Known World / 地図になかった世界

以上の9点、100冊のうちの9冊ですからほぼ一割です。わが編集部もなかなかの目利きが揃っているといことでしょうか。

この中の「The Collected Stories of Lydia Davis」は、正確にはこの本の邦訳を出しているわけではありませんが、リディア・デイヴィスの邦訳はあたしの勤務先から何冊も出ていますのでカウントしました。ちなみに同書については『サミュエル・ジョンソンが怒っている』の訳者あとがきで訳者の岸本佐知子さんが

また一一年には、四つの短編集を一冊にまとめた The Collected Stories of Lydia Davis を発表した。三十年ぶん、およそ二百本の短編を収めた七百ページを超えるこの大部の本は話題になり、多くの若い読者が彼女を”発見”するきっかけになった。

と書いています。このリスト100冊のほとんどは邦訳が出ていると思われますが、何冊かは邦訳が出ていないものもあるようです。しかし、これだけ評価されている書籍ですから、たぶん日本の出版社が既に版権を取得して邦訳出版に取りかかっているのではないでしょうか。

ガイブンを読む醍醐味かしら?

知っている人、面識のある方がメディアに登場すると不思議な気分です。本日はこちら。

朝日新聞の別刷beに、韓国文学の翻訳で著名な斎藤真理子さんが登場しています。写真には斎藤さんが手掛けた数々の韓国文学が並んでいます。

あたしもこれらのうち何冊かは読んでいます。斎藤さんの訳文は読みやすく、グイグイ引き込まれます。翻訳だけなく、作品を選ぶ才能にも優れているのでしょう。斎藤さんの翻訳作品はハズレがありませんから。

その別刷をめくるとインタビューも載っています。その中にあたしの勤務先から出ている『別れを告げない』の名前も登場します。

済州島事件を背景とした作品です。詳しいことは知らなくとも、光州事件という名称を知っている日本人は多いと思います。しかし、済州島事件となると、その名称すら知らない日本人がほとんどだと思います。かく言う、あたしがその一人でした。

でも歴史を描いているだけでなく、それを踏まえて今を生きる人たちが描かれている、今を生きる人たちがしっかりと歴史と向き合っている、そんな作品が韓国文学には多いように感じられます。もちろん『カステラ』のように、そういう堅苦しいこと抜きで楽しく読める作品も多いですが、その国の歴史や文化、人々の暮らしや思いを知ることができるのが海外文学を読む醍醐味ですね。

続編が出ていたのですね

朝日新聞に時々「GLOBE」という別刷りが挟まれていることがあります。今日の朝日新聞にそれが挟まっていました。

GLOBE全体の特集はひとまずおくとして、あたしが密かに楽しみにしている記事に世界のベストセラーのランキングがありまして、今朝は「英国のベストセラー」でした。紹介しているのは、あたしの勤務先でいくつもの翻訳を刊行している園部哲さんです。

その英国のランキングの第三位に『Long Island』という作品がリンクインしています。記事に載っている画像も同書のものですね。

コルム・トビーン『ブルックリン』の続編。25年後のアイリーシュに訪れた危機。

という簡単な紹介文が付いています。この『ブルックリン』は、あたしの勤務先から刊行した小説です。現在は品切れになっているのですが、映画化もされた作品で、チャンスがあれば復刊したいなあと個人的に思っている作品の一つです。

『ブルックリン』はウェブサイトにも「1950年代前半、アイルランドの田舎から大都会ブルックリンへ移民した少女の感動と成長の物語」とあるように、都会へ出て来た少女の成長物語です。春先に「新生活フェア」などを企画した書店員さんから、是非とも本書を復刊してほしいとリクエストされたこともある一冊です。確かに、新しい生活をスタートする春に読みたくなる本です。

ちなみに、この続編、日本では翻訳出版の話は進んでいるのでしょうか。新潮クレストブックスあたりで出版されそうな気はしますが、どうなのでしょう。あたしの勤務先、編集部は既に動いているのかしら?

465夜

松岡正剛さんが亡くなりました。あたしの勤務先では、特に著者などは刊行していませんので、縁はやや薄いでしょう。ただ、松岡さんの「千夜千冊」の第465夜で『ライ麦畑でつかまえて』を紹介いただいたのが、個人的には非常に印象に残っています。

その第465屋の冒頭で松岡さんは次のように書かれています。

一九六〇年代のアメリカで若者たちのお手軽なバイブルになりかかっていた文芸作品が三つある。精神科病院を舞台に患者たちの擬装と反抗を描いたケン・キージーの『カッコーの巣の上で』(冨山房)、戦争状態という管理と倫理の悪夢を描いたジョーゼフ・ヘラーの『キャッチ=22』(早川書房)、そして、J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』である。

あたしは、その当時のアメリカの状況を知らないので、この松岡さんの指摘がどれくらい打倒するのかわかりません。でもそういうものなのだろうと、この記事を読んだ当時は思っていました。そして、そのバイブル三作品、あたしも一丁前に架蔵しております。

振替休日に便乗商法

パリ五輪もようやく終了しました。この後は少しインターバルをおいてパラリンピックですね。アスリートの方々の活躍には拍手を送りますが、オリンピックという函はもうオワコンなのではないかと思っています。

それはともかく、あたしが興味を惹かれたのは女子やり投げの北口榛花選手が英語とチェコ語が話せるという話題です。チェコに単身武者修行に行っていたわけですから、チェコ語ができるようになるのは理解できますが、それでもすごいことだと思います。

北口選手がどんな教材を使って学習したのかわかりませんが、あたしの勤務先の人気商品である『ニューエクスプレスプラス チェコ語』を推しておきます。彼女に影響されてチェコ語をちょっとやってみたいと思った方もいるはず。まずはこの一冊から始めてみてはいかがでしょう。

そしてオリンピックからガラッと変わって、今朝の朝日新聞です。一面の「折々のことば」に師岡カリーマ・エルサムニーさんの言葉が引かれています。

カリーマさんは、あたしの勤務先からいくつか著訳書を刊行していますが、今回の記事に引きつけるのであれば、現在品切れですが、『イスラームから考える』がよいのかなあ、と思います。

在庫のあるものでカリーマさんの本を何か読みたいというのであれば、『変わるエジプト、変わらないエジプト』があります。

天声人語だけでは終わらなかった

一部の界隈では、今朝の朝日新聞一面「天声人語」が大いに話題になっていました。それもそのはず、朝っぱらから岸本佐知子さんの名前が登場しているのですから。

筑摩書房から出ている『ねにもつタイプ』から、オリンピックに関する、岸本さんの文章が引用されています。同書の「裏五輪」です。

わが家に架蔵しているのは単行本ですが、現在はちくま文庫で刊行されていますので、この「裏五輪」以外の文章も抱腹絶倒間違いなしなので、是非お手に取っていただきたいです。

ところで、その岸本佐知子さんの最新刊は、あたしの勤務先から刊行されている『わからない』です。なんと1万部を突破して、まだ売れ続けています。

そんな本日は、店頭で『ねにもつタイプ』が売れているかなあ、などと思いながら営業回りをしていましたら、こんなチラシを発見しました。《文芸担当による2023年上半期ベスト10》です。

別に売上というのではなく、ご自身が気に入った10冊ということなのでしょう。その中に『わからない』がエントリーしておりました。「笑いを堪えるのが困難」「何度だって読み返したい」という嬉しいコメントをいただきました。これは、紀伊國屋書店小田急町田店の話です。

電車の中、バスの中で思わず噴き出したいという方(そんな人いるのかしら?)には、この『わからない』をお薦めします。ただ、カバンに入れて持ち歩くのに単行本はちょっとしんどいなあ、というのであれば、新書サイズの『気になる部分』などは如何でしょう? こちらも抱腹絶倒間違いなしです。

ちなみに、あたしが思うに、岸本佐知子さんはいずれ『別冊太陽』か『文藝別冊』で特集を組まれる方だと信じています。