正月早々騙されました

パク・ミンギュの『短篇集ダブル サイドA』を読み始めました。

巻頭の作品「近所」は、ちょっとノスタルジックで甘酸っぱい作品、余命宣告された主人公と幼馴染みの年月を超えた逢瀬のような純愛小説家と思いきや、見事に騙されました。

余命を覚悟して、久々に小学校時代の仲間に再会する、その中に一人女性が含まれている、そしてその女性は夫と別れて女手一つで子供を育てている境遇。特に昔好きだったわけでもないけれど、なんとなく惹かれるものもあり、いかにもの展開で「昔好きだったんだよ」となんて告白される主人公。徐々に逢う機会が頻繁になり、かつての同級生の耳にもその噂が入ってきて、たぶん人生経験豊富な、否、男女の機微に聡い人であれば、そのあたりでその後の展開は読めたのでしょう。

あたし見事に純愛路線を予想していました。たぶん束の間の恋、最後の恋、初恋(?)の女性に人生の最期を看取ってもらうラブストーリーを期待したあたしは、いい歳をして余りにも青すぎたのでしょうか?

次の作品は一転して読み進めるのが辛い話です。妻が認知症を発想した主人公。二人して死のうと決意して最後のドライブ旅行に出発します。若いころさんざん苦労をさせたからせめてもの罪滅ぼしという思いも抱えての旅です。

あたしには妻などいないので、この話の設定はわかりませんが、近い将来には同居する母が似たような状況になるのかと考えると決して他人事とは思えないストーリーでした。そんな状況になったら、あたしはどうするのだろうか? 妹にヘルプを頼むことになるのか、はたまた老人ホームに母を入れてしまうのか。

この手の話を読むと、いろいろと考えさせられます。さて、第三話へと進みますか。

これも実験小説?

暮れに『俺の歯の話』を読んでいました。

ストーリー自体は、決して波瀾万丈とか血湧き肉躍るといったものではなく、意外と淡々と進んで行ったなあと感じました。もちろん面白くないというのではなく、ちょっと滑稽で、ちょっぴり物悲しく、そしてとんでもない要素もあって。

むしろ「訳者あとがき」などにもあるように、この作品が作られた背景の方に興味があります。出版に至るまでのいくつかのバージョンや各国語版など、単なる翻訳ではなく、そこから新たに発展して生まれた別のバージョンとも呼ぶべき作品の成長。そこが非常に心を引かれました。

海外小説として読むと、「へえー、こんな作品もあるんだ」という驚きもありますが、オークションなどに興味がある人には更に楽しめる内容なのではないかと思います。そう考えますと、海外文学の棚に置かれるのが王道ですが、美術書・芸術書の棚に置かれても面白いかな、という気がします。そう言えば、かつて『オークションこそわが人生』なんて本を出したこともありました。こちらは小説ではありませんが……

こういう美術界を舞台にした作品ですから、原田マハさんの作品なんかが好きな人には面白く読んでもらえるのではないかという気もします。