二十世紀も遠くなりにけり?

岩波新書の古典的名作が電子書籍になるようです。名付けて「岩波新書eクラシックス100」、ラインナップを見ていましたら、こんなタイトルが目につきました。

二十世紀の音楽』です。著者は吉田秀和。本書は、あたしの勤務先の『吉田秀和全集』にも収録されているものだと思いますが、あるいは違うものなのでしょうか?

いずれにせよ、全集は品切れ、岩波新書版も在庫僅少のようですので、こういった電子化は手に入れたかった人には嬉しいニュースではないでしょうか? ただし、この手の本の復刊を待っている人って、電子ではなく紙での復刊を望んでいる人が多いのでしょうかね? あと十年か二十年もすれば、「置く場所もないから電子の方がありがたい」という意見が大勢になるかも知れませんが……

さて、本書に目が留まったのは著者が吉田秀和ということだけではなく、来月上旬に文庫クセジュの新刊で『二十世紀の文学と音楽』というタイトルの本を出すからでもあります。

「古典音楽からロマン派,印象主義という歴史を経て,十二音音楽,新古典派といった新たな潮流を生み,シェーンベルク,ストラヴィンスキーらが活躍した激動の二十世紀.変化の時を迎えた音楽史を,名文家として知られる稀代の評論家が「演奏家」「作曲家」「聴衆と社会」という視点から同時代の眼で捉えた.」とある岩波新書の『二十世紀の音楽』に対し、

いつの時代も文学と音楽は互いに影響を与え合ってきた。本書は、いずれの領域においても数々の実験的試みがなされ、創造的な可能性が飛躍的に高まった20世紀に焦点を当てる。印象主義、表現主義、未来主義、ダダイスムといったさまざまな運動は、作家と作曲家の出会いの場となり、相互に影響がみられた。本書の第一部では、こうしたジャンルを越えた関係を歴史を追って検討する。第二部では、まず音楽にまつわるテクストを、つぎに100年のあいだに書かれた音楽小説をとりあげる。さらには詩と音楽、演劇とオペラといったテーマやジャンルごとに相互の関係を論じる。音楽に捧げられたテクストの数々へアプローチすることで、それぞれの領域が抱える複雑な関係を明らかにする。20世紀の音楽小説案内。

というクセジュの『二十世紀の文学と音楽』は着眼点などが異なりますが、併読すると面白いのではないかと思います。同じ新書サイズなので是非!

それにしても、こうして二十世紀を振り返る、総括するような書籍が出るようになるということは、それだけ二十世紀が歴史になってきたということなんですね。あっ、でも岩波新書ってかなり昔の、それこそ二十世紀半ばに出ている本でしたよね?

評判どおりの傑作

掃除婦のための手引き書』読了。

書評も出て、店頭でも最初からよく売れていると聞いていましたので、遅ればせながらあたしも読み始めました。

しかし、最初の数篇、実はあまり面白くなかったです。「これがなんで売れてるの?」というのが正直な感想でした。いや、面白くないと言ってしまえば、人それぞれ好みがありますから語弊があるかもしれません。ただ、これほど売れる(売れている)とはとても思えない出来映えだと感じながら読み始めたのは偽らざる感想です。

ところがその数篇を過ぎたところから、突然面白くなってきました。グイグイと引き込まれます。やめられません。「なんだ、この面白さは!」と掌を返したような感想になりました。「これ、もしかして途中から著者が変わっていない?」と思えるほどの違いです。

何なのでしょうね、この変わり方。作品が変わったのではなく、あたしがようやくルシア・ベルリンの作品世界に入り込むことができたということなのでしょうか?

そう言えば、以前にも一度同じような体験をしています。やはり途中までは退屈で、読み進めるのをやめようかと思ったのですが、そこを我慢して乗り越えたら俄然面白くなって、ページをめくる手が止まらなくなったのです。

その作品は『ダンテ・クラブ』です。現在はもう版元品切れなのかしら? 売れたのか売れなかったのか知りませんが、とにかく途中で著者が変わったのか、あるいは役者が変わったのか、というくらい読みやすく、面白くなったのが印象的な作品でした。

こういう作品ってあるものなんですね。