短篇なら、ということで……

昨日の「よんとも」が、海外文学初めての人でも短篇なら取っ付きやすいからお勧め、という趣旨でした。おすすめの短篇集の中にはあたしの勤務先の『西欧の東』がありましたので、あたしも何冊かお勧めしたいと思います。

まずは『ヴァレンタインズ』です。アイスランドの作家オラフ・オラフソンの作品です。

全部で12篇ですが、それぞれのタイトルが「一月」「二月」と始まって、12篇ですので「十二月」まであります。各篇は男女の恋愛を描いているのですが、どれもこれも一筋縄ではいかない結末です。「どうしてその場面でそんなセリフ言っちゃうの?」「どうしてそんな行動を取るのよ?」と言いたくなるような、愛の終わりとまでは言えないまでも二人の危機を描いた作品集です。

続いてはアメリカの作品『神は死んだ』です。

冒頭の作品で、いきなり神様が野垂れ死にをしてしまいます。「えっ、どういうこと?」と思われた方は是非とも本書を読んでください。そして、神様が死んでしまうという設定、日本人にはピンと来ないかも知れませんが、キリスト教社会のアメリカ人にとってはきわめて深刻な問題のようで、続く各篇は神が死んだことによる人々の不安や社会の不条理が描かれます。「ああ、欧米人っては神様が死んでしまうとこんなふうになっちゃうんだ」と思えてきます。

三つ目はメキシコ系移民のアメリカ作家による『ミニチュアの妻』です。

どれこれも奇想天外な着想に満ちあふれた作品ばかりですが、代表して表題作「ミニチュアの妻」について紹介しますと、主人公はあらゆるものを小さくする技術を持った男性です。ひょんなことから彼の奥さんが小さくなってしまいました。もちろん彼には小さくした門を元へ戻す技術もあるわけですが、何パターンかある小さくする方法のどれを用いたかがわからないと元へ戻すこともできないのです。彼は自分の妻がどの方法で小さくなってしまったのかがわかるまで、まずはミニチュア化した妻が快適に暮らせるように、シルバニアファミリーよろしく家具などの調度品を作ってやります。実に快適な妻のためのミニチュアの家ができたわけですが、そんな妻が採った行動は……

他にもたくさんありますが、タイトルだけ挙げておきますと『ナイフ投げ師』『モンスターズ 現代アメリカ傑作短篇集』『キャサリン・マンスフィールド傑作短篇集 不機嫌な女たち』『歩道橋の魔術師』といったところが読みやすく、面白くて、海外文学が初めてという人にも取っ付きやすいのではないでしょうか?

クリント・イーストウッド?

昨日の「よんとも」はメモ帳を持参しなかったので、小橋さん、トヨザキ社長の軽妙なやりとり、ただ必死に聞くだけで何もメモを残せませんでした。返す返すもそれが残念です。

それはともかく、いくつか印象に残ったことと感想などを……

小橋さんが大好きな作家はエリザベス・ストラウトだそうで、昨日は短篇という縛りがあったので『何があってもおかしくない』を挙げていましたが、トークの中では姉妹篇と言ってよい『私の名前はルーシー・バートン』も是非読んでみてくださいと勧めていました。

またトレヴァーも挙げたのは『異国の出来事』でしたが、国書刊行会の《ウィリアム・トレヴァー・コレクション》はどれもお勧めとのこと。やはり好きな作家になると短篇長篇を問わず読みたくなるものなのですね。

そして欧米外にも優れた作家はたくさんいるという例としても挙がっていたのが『観光』のラッタウット・ラープチャルーンサップです。この中に主人公の「僕」が飼っている(父にプレゼントされた)ブタが出てくるのですが、そのブタの名前がクリント・イーストウッドです。そんなところでも人盛り上がりしたのですが、何の因果か、あたしの昨日のブラウスがブタ模様。イベント後にトヨザキ社長から開口一番「クリント・イーストウッドだ」と言われました。まさか、そんな話の展開になるとは思いも寄らず、不甲斐ない話ですが『観光』も未読なので単なる偶然でしかありません。狙ってチョイスしたのでしたらカッコよかったのでしょうが……

さて、既にTwitterなどでは小橋さんファンの方と見られる昨日の参加者の方の書き込みが賑わっていますが、いつもの「よんとも」に比べると会場の雰囲気がずいぶんと異なりました。いつもの「よんとも」はトヨザキ社長のファンやガイブン好きが集まるので、紹介された本も既に読んでいる人が多い印象でした。しかし、昨日は小橋さんのファンの方が多かったせいでしょうか、それほど海外文学に親しんでいない方が熱心に話を聞いている姿が印象的でした。

海外文学にこれまで触れてこなかった人に海外文学の面白さを広めたい、そういう「よんとも」の趣旨からすると昨日のイベントはまさに理想的な場になっていたのではないでしょうか。もちろん本好きな小橋さんのファンの方ですから、本に対する興味・関心はそれなりにあったようですので、あとはいかに海外文学へと導くか、その呼び水さえあればなだれ込むような方々ばっかりだったと思われます。

イベント後は、多くの方が紹介された本をレジに持って行っていましたし、複数冊購入されている方も多かったです。ガイブンの布教活動、大成功だったのではないでしょうか? あとは舞台でもドラマで映画でも構いませんから、小橋さんお気に入りの作品を是非小橋さんに演じていただきたいと期待しています。小橋さんが演じるのではなく、脚本や演出でも構いませんので、是非ともお願いします。

また一人改革派が逝く

朝、新聞を開いたら飛び込んできました。

毛沢東の元秘書・李鋭氏が亡くなったそうです。書棚を漁ってみましたら『中国民主改革派の主張 中国共産党私史』が出て来ました。岩波現代文庫からはもう一冊『無風の樹』というのも出ていますが、こちらは架蔵していませんでした。

毛沢東の周囲の人の回想録や手記などはいくつか出ていますが、改革派として最後まで筋を貫いた李鋭氏の死去は習近平の個人崇拝路線の現在、どういう意味を持つのでしょう? またこのニュース、中国国内ではどの程度の扱われ方なのでしょう?

2019年2月17日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー