不屈の人

台風が近づく中、会社まで出かけて行きました。

「わざわざ大雨の中、なんで?」と問われそうですが、それは陳光誠さんの講演会を聞きに行くためです。会場が駿河台の明治大学でしたから、いったん勤務先へ寄ったわけです。

陳光誠さんと聞いて、どれくらいの日本人がわかってくれるのでしょうか? 少し前から来日していて、各地で講演会を行なっています。その割に、朝日新聞など主要紙で記事になっているのを見ませんが、小さくても出ているのでしょうか。東京講演が今日までなかったからでしょうか?

で、その陳光誠さんですが、「盲目の人権活動家」として有名な方です。5年前、軟禁状態に置かれていた山東省の自宅から脱出し、支援者の助けを借りて北京のアメリカ大使館へ逃げ込み、悩んだ結果、アメリカへの亡命を決断した人、と言えば当時のニュースを思い出した方もいるのではないでしょうか?

いま「有名な方」と書きましたが、それは国際社会においての話であって、中国国内ではほとんど知られていないと思います。もちろん中国国内でも人権活動に従事している人や共産党に批判的な人なら当然知っている名前ですが、ノーベル平和賞を受賞した劉暁波の名前ですら、北京の街中で若者に聞いても知らない人がいると言われるくらいですから、陳光誠さんの中国国内における知名度も推して知るべきでしょう。

 

その陳光誠さんの脱出劇を中心に、中国政府の人権弾圧については、今日の講演会で陳光誠さんの対談相手を務めた城山英巳さんの『中国 消し去られた記録』に詳しいですし、今日、陳光誠さんが話されたご自身の半生については『不屈 盲目の人権活動家 陳光誠の闘い』により詳しく書かれています。

どちらも、あたしの勤務先の刊行物で、どちらも読んでいますが、あの脱出劇の主人公である陳光誠さんが目の前にいるというのが信じられません。その当時、北京にいて脱出劇を間近で取材していた城山さんも、ここ日本でこうして陳光誠さんの隣に座る日が来るなんて夢のようだと話されていました。『不屈』を読んだ人であれば、あの本の中の人がここにいるというだけで感動ものだと思います。

陳光誠さんのお話は、大まかな原稿は作ってあったようで、話しぶりは穏やかで非常にハキハキとしたものでしたが、共産党批判のくだりになると俄然声量が大きくなり、早口でまくし立てるようになるのが印象的でした。あたしなど、若干は共産党自身が自己改革、自浄作用を見せるのではないかという期待を抱いているところがあるのですが、その点、陳光誠さんの立場ははっきりしていて、共産党がなくならない限り中国に未来はない、というものでした。

多くの人が指摘するように、5年前アメリカへ亡命したのは正しかったのか、中国に残って影響力を保つべきだったのではないか、という意見もありましたが、陳光誠さんは、あの判断は正しかったと述べていました。確かにアメリカにいても監視の目、中国共産党の魔の手は近くに見え隠れしているようですが、それでも家族揃って平和に暮らしていられるのは、『不屈』を読めばどれだけかけがえのないことか理解できます。

また陳光誠さんは、当時よりもインターネットが発達しているので、国外にいても中国国内に影響を与えることはできると自信を持っているようでした。ただ、城山さんなどは習近平政権以降、つまり陳光誠さんが中国を離れて以降、ますます弾圧や圧迫が強まっている中国政府に対して、非常に悲観的な意見を持っているようです。

とにかく、いろいろ考えることはありますし、まだちょっと自分自身が興奮冷めやらぬところがあるので、このあたりで留めておきますが、今日のは講演会、恐らく200名以上集まっていたのではないでしょうか。日本人以外の方もいたようですし、陳光誠さんが盲目ということもあって、視覚障害をお持ちの方も数名会場にいたようでした。メディア席は20席くらいありましたが、ほぼ埋まっていましたので、明日以降、新聞などにも記事が載るのではないでしょうか?

講演会後、あたしの勤務先のスタッフが会場販売をしていたのですが、本は飛ぶように売れていました。そして陳光誠さんはご自身の著書に快くサインをしてくださいました。上の写真は、あたしがしていただいたサインです。目が不自由ですから片手を添えて、一画一画丁寧にペンを運んでいました。非常に朗らかに「謝謝」と声をかけてくれました。

2017年10月29日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー

レーニン問題、再び!

11月下旬にレーニンの評伝を刊行します。またもや上下本です(汗)。

今年はロシア革命百年ということで、各社から関連本が刊行されているようですが、ご多分に漏れず、あたしの勤務先もそれなりにロシア、ソ連ものは出しています。

売り上げの方はと言いますと、「まあ、ボチボチ」ですが、思いのほか売れたものもあるので、日本人もそれなりにロシアに関心は持っているのだなあと感じます。正直なところ、もっと売れないのではないかと、個人的には危惧していたので……

さて、そのレーニンですが、社内的にはいろいろと問題アリなんです。

別に本の内容とか翻訳の出来とか、そういった問題ではありません。著者にしろ訳者にしろ、そんなの知らないよ、と言いたくなると思いますが、「レーニン」ってあたしの勤務先の営業部としてはかなり面倒な案件なんです。

試しに、勤務先のウェブサイトの検索窓に「レーニン」と入力してみてください。あたしの勤務先で刊行しているレーニンやロシア関連書が出て来ます。それだけならよいのです、ロシア革命関係の書籍がヒットしているだけなら。

何が言いたいのかと言いますと、実際に検索してみた方ならすぐにお気づきだと思います。レーニンやロシア・ソ連以上に、語学書が検索結果に現われるのです。

その理由は簡単です。語学書でよく使われる「トレーニング」という言葉が、「レーニン」を検索すると一緒にヒットしてしまうからです。あたしの勤務先のウェブサイトはタイトルだけでなくないよう紹介の文面も検索対象になっているらしく、そこに「トレーニング」という単語があればヒットしてしまいます。

語学書なんて、タイトルに「トレーニング」が付くのはたくさんありますし、内容紹介の文面となれば、問題集やドリルなどにも「トレーニング」という言葉は使われがちです。こういった刊行物が軒並み検索結果に現われてくるので、肝心なロシア革命のレーニンだけが知りたいときには不便極まりないのです。

たぶん、語学書を刊行していない出版社であれば、こういう問題は起きないと思いますが、あたしの勤務先は語学書も柱の一つなので、こういうことが起きるのです。

ということは、ネット書店の検索や書店店頭の検索機で「レーニン」を検索したらどうなってしまうのでしょう? あたしの勤務先の刊行物だけでもこういう結果になるわけですから、他社の分が加わったらエラいことになりそうです。ネットの場合は、絞り込みとかジャンル指定とか、それなりにやりようがありますが、店頭の検索機は、そこまで遣いやすくはなっていないので厄介ですね。

もちろん、書店であれば、ロシアのレーニン、ソ連のレーニンの本を探すのであれば、素直に歴史の棚へ向かうのでしょうが……