ダイソンのような出版社になれるのか?

11日付けの朝日新聞経済面に載っていた記事に、こんな一節がありました。

イオンは8月下旬、自主企画商品(PB)114品目を平均1割程度値下げした。春も大規模な値下げをしたが、対象商品以外の売れ行きは伸び悩んだ。イオンリテールの岡崎双一社長は「お客に目を向ければ、今後も(値下げを)必ずしていかなければならない」とさらなる値下げを見据える。

安くしないと売れない、そういう循環が定着し、政府がいくら景気がよくなっていると言っても、国民は誰も信用していないのがわかります。

書籍の場合、そこまで値段に敏感ではないと思いますが、そのぶん業界全体がこの十年以上冷え込んだままです。それによって得られるものなどを考えると、書籍の値段は決して高いとは思いませんが、数百円はおろか数十円、数円単位でしのぎを削っているスーパーなどから見れば、薄っぺらいのに数千円もする本は、とても消費者に振り向いてもらえない商材なのかも知れません。

本の場合、安い方が売れるという傾向は確かにありますが、安くしたから売れるわけでもないですし、高いからと言って売れないわけでもありません。読者がその値段に見合うと判断してくれれば、それが適正な価格ということになります。もちろん読者の見做す適正価格というのあれば、諸経費などから割り出される出版社側の適正価格というのもあります。

「たくさん作れれば安くできる」というのはどの業界でも同じですが、たくさん作って安くしたからといって、そのぶん売り上げが伸びるとは限らないのが難しいところです。単純に価格が半分になったからといって売り上げが二倍になるかといえば、決してそんなことはなく、多少値段の差があっても、あるジャンルの書籍の売れる冊数というのは、ものすごく影響力のある紹介でもない限り、だいたい同じところに収束します。2200円の翻訳小説と2400円の翻訳小説で売り上げにそれほどの差がないのであれば、出版社としては2400円で売った方が利益が大きくなりますから、そちらを選択することになります。

繰り返しになりますが、つまりはその価格に見合う内容の本であるか否か、ということです。本が売れないのは業界全体の話ですから、となると文庫や新書のように安く大量にという路線もあるでしょうが、高価格で部数を絞り確実に利益を上げるという方法もあります。売れ残った大量の在庫を抱えるのはどの出版社も避けたいところですから、予想される読者プラスアルファ程度の初版部数に絞り込み、それでどれだけの高価格に耐えられる本なのか、ということになりますが、こう書いていると、なんとなく家電のダイソンを思い出します。

ダイソンは、中国や韓国のメーカは言うに及ばず、日本メーカーの製品よりもはるかに高価格の製品を作っています。とりあえず使えればよいという人だったら絶対に手を出さないような価格です。それでも売れています。それは価格に見合う性能だからです。

本も同じように、価格に見合う内容であれば、少しくらい高くても買ってもらえるというのは事実です。あたしの勤務先は中国や韓国のメーカーの路線を取ろうとしているのか、それともダイソンになろうとしているのか……

文庫本と図書館。たぶん新書も同じこと?

今朝の朝日新聞にこんな記事が載っていました。

これまでも「無料貸本屋」と揶揄され、出版社から槍玉に挙げられることのあった図書館。確かに、数千部や数万部を売っている大手出版社からすれば、その何割かが図書館で済まされてしまうと大きな痛手でしょう。

でも学術書、専門書のように、なんとか頑張って1000部、1500部の初版部数で頑張っている出版社からすれば、そのうちの300部から500部前後を図書館が購入してくれるのであれば、非常にありがたいと考えるのも道理です。この議論は出版社の出版規模によって考え方の差が大きいと思います。

とはいえ、あたしも「文庫や新書くらいは本屋で買いなよ」と思う方です。この10年くらいでしょうか。不景気と言われるようになり、電車の中で本を読んでいる人が手にする文庫本、図書館のラベルが貼ってあるものが目立つようになりました。以前は、単行本などでは時々見かけることはありましたが、この10年、文庫や新書を図書館で借りて読んでいる人が増えたなあという印象です。

文庫、新書のように安く大量に作っている商品は、大量に売れてくれないと赤字になってしまうのは子どもでもわかる理屈です。その売れてくれるはずだった部数のかなりの部分が図書館で借りられていると考えたら、確かに見過ごすことはできないでしょう。

景気がよかったころは図書館で借りられている部数なんか気にならないくらい本屋で売れていたから問題が表面化しなかっただけでしょうが、昨今はそうは言ってられなくなったということですね。ただ、図書館よりもスマホの方が脅威ではないかと思うのですが。

ロシア革命百年、盛り上がってますか?

昨日の朝日新聞夕刊。

個人的には、あまりロシア革命をアピールするよりも、共産主義とは何であったのか、マルクスの理想は奈辺にあったのか、そういった視点で捉えていました。

だからこそ、ピケティや格差社会といったところにも射程が広がると思うからです。あまりロシアというかソ連を強調すると、スターリニズム的な強権主義、個人崇拝、共産党独裁というマイナスイメージばかりになるので、なぜそうなってしまったのかを考究する方が、いまロシア革命を取り上げる意味があると思うのです。来年はマルクス生誕二百年ですし。

で、朝日新聞の記事に載っていた写真。あれはジュンク堂書店池袋本店の棚でしょうか? あたしの勤務先の本がチラホラと見え隠れしていますね(汗)。

別に、あたしの勤務先は左寄りの出版社というわけではないのですが、なぜかこのところソ連ものが増えているような……。この後も刊行予定がありますし(汗)。

社内の流れとしては、第二次大戦を中心とした「近現代史もの」という刊行の中でのソ連、ロシア関連書なのです。ですから、決してロシアものばかりではなく、同じくらいドイツものも出しているんですよ!

とはいえ、上の写真のようにロシア、ソ連関連書だけを並べてもこれだけあるわけですから、書店でコーナーを作ったらそれなりに存在感を出してしまいますよね。

アピール力が足りない?

11月の上旬に、大阪で商談会があります。大阪駅前のグランフロントの中にあるホールが会場です。先日、冊子が出来上がってきました。

一応、今年も出展します。今年で三年目、いや二年目だったかしら? あたし一人、ポツネンと自社ブースでまどろんでいます(笑)。

東京でも今月下旬にあるのですが、こういう場で自社の商品をどうアピールすればよいのかが悩みの種です。ふだん訪問している大型展の方も来場されますが、過半は、いわゆる「街の書店」です。そういう書店に対して、値段も張るし、読者も限られている、わが勤務先の本をどう置いてもらうか。

周囲の、来場するなり書店員が殺到する他社のブースを尻目に、一日無聊を託つようなイベントです。ただ、毎年一つや二つ、うちの本を置いてみたい、試してみたいと言ってくださる書店の方が見えられます。そういう書店の方との邂逅は、立ちっぱなしの疲れを癒してくれるものです。

さて、今年はどんな風になりますか?