批判よりも功績を称えるべき

本屋大賞も発表も無事終わり、と書きたいところですが、今朝の朝日新聞にも直木賞を取って十分売れている本が本屋大賞に選ばれた、ということを伝えていました。

ただ、この問題は、今年があまりにも顕著ですが、ここ数年ずーっと言われ続けてきたことです。記事中にもありましたし、あたしも知り合いの書店員さんから話を聞いたりしますけど、この点について自問自答している書店員さんは多いです。決して、「これていい」と思っているわけではなく、本屋大賞はどうあるべきか、考えている方が多いです。

朝日の記事は、それでも批判と言うよりは現状を紹介している感じなのでマシですが、ネットなどでは更に過激に本屋大賞批判をしているものもあるようです。言論の自由がありますから、批判することは構いませんが、個人的には斜陽と言われる小さな業界で、少しでもプラスになることであればそれを称えるべきであって、足を引っ張るようなことは慎むべきではないか、そう思います。

本屋大賞が、それなりの歴史を作ってきて、まるっきり問題がないとは言いませんが、それは実行委員の方々、言われなくてもわかっているはずなので、外野は温かく見守りましょうよ、と思います。

読んだ気にさせられる

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やはりメールじゃなくて手紙だよね?

書店店頭にこんな本が並んでいました。

井上ひさしから、娘へ 57通の往復書簡』です。

内容は読まなくてもわかる、タイトルそのままですね。ところで井上ひさしさんの手紙と言えば、こんな本を忘れてもらっては困ります。

 

初日への手紙』『初日への手紙(2)』です。

前者の副題は「「東京裁判三部作」のできるまで」、後者の副題は「『紙屋町さくらホテル』『箱根強羅ホテル』のできるまで」で、井上さんと劇場関係者との間のやりとりから、作品が出来上がるまでを追ったものです。

それにしても、手紙だからこそこうして残るし、このようにまとめて出版するということもできるわけですが、これからの時代、こんなやりとりはメールになってしまうのでしょうから、「本にする」「出版する」なんて夢のまた夢なのでしょうか?

それでもメールであれば、パソコンの中の受信箱・送信箱からコピペして、それなりの組み方をすれば本に仕立てることはできるかも知れません。もちろん、所詮はメールですから、内容が読むに耐えるものであるかは保証の限りではありませんが。

ただ、メールならまだ出来そうだと思うのですが、今の時代、更に進んでLINEですよね? そんなの本になるのでしょうか? そもそもどの程度スマホに保存されているのでしょうか?

と考えていたら、かつて映画化もされた『電車男』って、こういうタイプの作品だったのではないかと思い出しました。

 

違いましたっけ? 確かに一つの時代を象徴する作品ではあったかもしれませんが、読み物としては井上さんとは比較にならないですね。

一緒に並べれば売れるというわけではありませんが

もうじき刊行される、作品社の『ほどける』という作品。同社ウェブサイトの内容紹介には

双子の姉を交通事故で喪った、十六歳の少女。自らの半身というべき存在をなくした彼女は、家族や友人らの助けを得て、悲しみのなかでアイデンティティを立て直し、新たな歩みを始める。全米が注目するハイチ系気鋭女性作家による、愛と抒情に満ちた物語。

とあります。全くもって牽強附会、我田引水かも知れませんが、この紹介文だけを読むと、あたしの勤務先の『私たちが姉妹だったころ』が思い出されます。

ちなみに、同書の内容紹介は如下

ローズマリーはカリフォルニア大学で学ぶ22歳。無口で他人とうまく付き合うことができない。かつては心理学者の父と主婦の母、兄と、双子にあたる姉ファーンのいる、おしゃべりな子だった。だが5歳の時に突然祖父母の家へ預けられ、帰ってみると姉の姿が消えていた。母親は部屋へ閉じこもり、父は酒に溺れる。大好きだった兄も問題児になり、高校生の時に失踪してしまう。ローズマリーがこの大学を選んだのは兄の手がかりを捜すためだった。

幼少のころに姉を失う、というディテールだけは同じです。たぶん、前者とはまるで異なるテイストの作品なんですけど……

書店で見かけたもの

下の写真は、町田にある久美堂本店。

YA出版会のセットが棚に揃っています。中高生の皆さん、是非どうぞ!

上の写真はブックファースト新宿店。ポール・オースターの新刊が二か月づけて刊行になったのを記念して、オースターの翻訳と、オースターが影響を受けた作家たちの本を取り揃えています。オースター作品は、あたしの勤務先でもいくつか出していますし、オースターが影響を受けたベケットのもの出していますので、思いのほか、あたしの勤務先の刊行物が並んでいます! ありがたいことです。

極めて個人的な感想を……

発表された、第三回日本翻訳大賞で『ポーランドのボクサー』が大賞を受賞しました。なんと、これで第一回から三回連続で大賞を受賞したことになります。

上の写真がその歴代受賞作です。一番右が今回の受賞作『ポーランドのボクサー』、そして右から第一回第二回のそれぞれ受賞作になります。

  

『エウロペアナ』は小説とノンフィクションをうまくミックスした二十世紀史で、刊行当初は本屋で「歴史」の棚に置かれているところもありました。コミュニズム、ナチズムに翻弄された東ヨーロッパの苦悩が、皮肉や冷めた笑いを交えながら語られます。

『ムシェ』はこれも実話のような物語。スペイン内戦を避けてベルギーへ疎開したスペインの子供たち。その一人を引き取ったムシェ。しかしヨーロッパ大陸はナチスが台頭して更に危険な情勢、子供たちは再びスペインへ戻ることになります。そんなムシェ氏は反ナチスのレジスタンス運動に加わり……

『ポーランドのボクサー』はナチスに迫害された中米に逃げてきたユダヤ人一家。その家の息子が自分のルーツを探すかのようにヨーロッパを訪れ、そこでヨーロッパで白眼視されているジプシーとさまざまな交流を通じ、自分や家族について考える物語。

と、こうしてみると、少なくともこの三作に関しては、ヨーロッパの一筋縄ではいかない現代史を巧みに文学に昇華させた作品が選ばれた、という感じがします。

早くも重版です

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