一緒に如何ですか?

あたしの勤務先の海外文学シリーズ《エクス・リブリス》の大先輩、目標でもある新潮社クレスト・ブックス。このところ毎年秋に全国の書店でフェアをやっています。

「さすが新潮社、拡材の小冊子もきれいに作るなあ」などと毎回羨望の眼差しを向けているのですが、書店の方から時々、「クレストだけだと新味がないから、エクス・リブリスも一緒にフェアやりたいんだけど」と言われることがあります。こちらとしては嬉しい反面、「クレストと一緒なんて、大リーグとリトルリーグみたいでとても太刀打ちできないのでは?」という不安もよぎります。

が、そういう声がしばしばあるのも事実なので、あえて大胆にも、こちらから書店の方にフェア競催を持ちかけてみることにしました!

台湾は国だと思いますか?

昨晩、八重洲ブックセンター本店で行なわれた野嶋剛さんと前原志保さんとのトークイベントのまとめを少々。

  

台湾とは何か』『蔡英文 新時代の台湾へ』の刊行記念ということで、当然のことながら話題は現在の台湾について。まずは冒頭、この両書がネット書店などを見ると常にペアで購入されているということからスタート。ちなみに、ここへ来てさらに一冊、『蔡英文の台湾』という書籍が毎日新聞から出ましたね。やはり蔡英文、要注目なんだと思います。お二人も、台湾についてこうして語れる馬を設けてもらったことが本当に嬉しいと話していました。裏を返せば、台湾についてはこれまでそれほどネグレクトされていたということのようです。

まず『蔡英文』の蔡英文による序文について、前原さんは同書が台湾人に向けたマニフェストのようなものなので、日本に関する言及がほとんどなく、このまま日本で出版するには何か一言欲しいと思い、総統就任前の忙しい時季ではあったが、ギリギリのタイミングまで待ったと裏話を披露。

その蔡英文ですが、野嶋さん曰く、かつてインタビューした経験から非常に細かい人という印象を持っているそうで、前原さんは「つまらない人ではなく、誠実にことに向き合っている人」だとの感想。

さらに野嶋さんは、とかく台湾について論じると、右や左のレッテル貼りがまずは先立つところがあるが、右でも左でもない真ん中の台湾を伝えたかったというのが『台湾とは何か』を執筆した動機だとか。蔡英文政権については、独立に触れず現状維持で行くという見立て。

ちなみに野嶋さん、前原さんが紹介していましたが、現在の台湾、70%の人が中国人ではなく、自分は台湾人だと思っているそうで、大陸との統一を支持する人は5%程度なんだとか。選挙をビジネスにたとえれば、中台統一は商売にならず、候補者は「中国人」という言葉も使えないのが今の台湾だそうです。

では、そんな状況下、蔡英文の今後の政権運営は?

両岸問題については曖昧な態度を維持していくだろうと予想。中国共産党はしばらくは様子見だと思っていたが、昨今の動きを見ると早々と様子見をやめた模様。ただし共産党も台湾に対して何か打つ手があるのかといえば有効なものは何も持っていない状況。まずは最初の4年間、4年後にどうなっているか。

台湾で起きたひまわり運動。学生たちは天真爛漫に台湾独立を主張していたが、10年前には独立を語るのはある種のタブーであったことを考えると隔世の感。若い世代にとって「台湾は既に独立している」という意識らしい。(ののあたりは『台湾とは何か』に詳しい)

さて台湾は国家なのか。

日本ではこれまであまりにも「一つの中国」という考えに洗脳されすぎていて、それに対する疑問や異を唱えることをアカデミズムの側もしてこなかったという。これも野嶋さんの著書に詳しいですが、中華民国が台湾化してきていて、馬英九は中華民国の総統にはなれたけれど台湾化した中華民国の総統にはなれずじまいだった、それが人気急落の原因ではないか。

トークの内容はざっとこんな感じでした。馬英九がなぜあれほど支持率を落としたのかはこれからの検証が必要のようで、また前原さんが李登輝研究がスタートだったと語っていましたが、その李登輝もなかなか一筋縄ではいかない人物で、その評価はこれからも変わるものと思われます。

野嶋さんは、蔡英文政権は4年で終わると予想、前原さんはなんとか8年続くのでは、続いて欲しいという期待。素人意見ですが、あたしはお二人の話を聞いていると、蔡英文はこれからも変わっていく、成長していく、いろいろなものを吸収して自分を変えていく、変えていける人ではないかと思いました。

政治家ではなく官僚、それもものすごく優秀な官僚である蔡英文。政治家としては、もう少し清濁併せ呑むようなところが必要ではないかとも感じますが、優秀なブレーンを集められれば(と言いつつ、彼女がもっとも有能なブレーンタイプだと思います)、すごい政治家になるだろうと思いますし、お二人も歴史に名を残すすごい総統になる可能性もあると指摘していました。

さて個人的な感想を。

台湾にはこれまで2回だけ行ったことがあります。どちらも台湾に2日いたくらいの短い観光旅行でしたので、台湾がどうだと言える立場にはありません。むしろ思い出されるのは恩師でもある伊地智善継先生のお話です。『中国語辞典』の仕事の合間の雑談でしたから、今から十五、六年か、もう少し前のことです。伊地智先生が聞いたか読んだ話として、台湾の何らかのアンケートで、自分たちを(中国人ではなく)台湾人だと思う人が5割を越えたらしく、その意識の変化に伊地智先生は驚かれていました。

伊地智先生の世代ですと、少数意見はあれ台湾も大陸も中華意識でつながっていて、いずれは統一されるという意識が多数を占めていたのが普通だったからでしょう。またそのアンケートでは大陸から解放軍が攻めてきたら武器を持って戦うという台湾人がやはり増えているという結果もあったそうです。

あたしは、それでもまだ大陸と台湾の統一の可能性は残っていると思っています。それには香港で取られている一国二制度の帰趨が鍵になると思っていたのですが、このところの大陸側の締め付けは、あたしの予想からは遠のくような事態だと思います。大陸の経済成長、それにともなう大陸の人の海外旅行の増加により、台湾人も香港人(中国人ではなく香港人であるという意識、昨夜のトークでちょっと話題に上がりました)も大陸の人とじかに触れ合ったり接したりする機会が増え、親しみよりも違和感、異質さを感じることが大きくなったために台湾人意識、香港人意識が芽生えたと言われます。これについては、あたしは交流が進めば、そのうち解消されるのではないか(数十年かかるかもしれませんが)とあたしは楽観的です。

いずれにせよ、一つの中国とか、台湾は中国の一部という先入観を一度外し、中国にせよ台湾にせよ眺めるよい機会が生まれ、それに呼応するように台湾に関する書籍が日本でも増えている時期になったのだと思います。

アウシュヴィッツも目に留る

そろそろ夏、いや、既に夏。梅雨は明けていないけれど、気温だけは完全に夏。

だからでしょうか、徐々に「戦争」に関する書籍が目立つようになってきました。昨年は戦後70年という節目で特に大量の新刊が刊行され、「既刊も並べたいけど、新刊だけでフェア台が埋まっちゃう」という書店員の声も聞かれましたが、今年はそこまでの量にはならなそうです。

とはいえ、夏になると戦争関連の書籍が増えるのは事実ですが、個人的に書店店頭を眺めていて感じるのは、ヒトラー(ナチも含め)と満洲関連書が得に目立つなあということです。どちらも安定して売れるテーマでありますし、新資料や新視点を駆使した著作も増えていると感じます。

そんな中、アウシュヴィッツ関連の書籍もポツポツと目に付きます。特に、子供とアウシュヴィッツという本が目に留るように感じるのは錯覚でしょうか?

 

アウシュヴィッツの図書係』『13歳のホロコースト』といった作品です。

 

もちろんあたしの勤務先でも『14歳のアウシュヴィッツ』『死の都の風景』といったものを出しております。

本の立ち位置

今朝の朝日新聞の記事です。

「本✕異業種」なんていう見出しを見ると、あたかも本が主役のような感じですが、記事を読むとどうもそうではないようです。本はあくまでオブジェ、飾り、そんな扱いのようです。

「おしゃれな雰囲気を出し」って、本をなんだと思っているのでしょうか? そもそも本っておしゃれなのでしょうか?

確かに装丁がきれいな本というのはあります。眺めていたくなるような装丁、飾っておきたくなるような装幀、確かにそんな本はあります。

でも、基本的に本って、物体としての本自体がおしゃれなわけはないと思います。本を読み、そのエッセンスなり精髄なりを吸収し身につけ、自分の精神とか心の持ち様とか生き方を省みる、そんな態度を身につけることで素敵な(あえて「おしゃれ」とは言わない)人になるものだと思うのです。決して、本が置いてあるからとか、本を持っているから(小脇に抱えているから)といっただけでおしゃれになるわけではないと思います。

確かに、陳列してある商品に関する知識が、本が側に置いてあることで得られやすくなるという効果はあるでしょう。でもそんなスマホでちょっとググるみたいに、簡単に知識を与えてしまってよいのでしょうか? やはり多少の苦労や努力をして自分で調べる、ということが肝心なのではないかと思うのです。

広告のような宣伝のような

まずは昨日の朝日新聞です。

クラシック音楽が注目を浴びているのでしょうか?

 

文庫クセジュには『100語でわかるクラシック音楽』『100語でたのしむオペラ』といった音楽関係の本もありますので、とりあえず知りたいという方にはうってつけだと思います。

続いては今日の紙面、テレビ欄です。TBSで今晩放送される「ふつうが一番」の紹介です。

東山紀之と松たか子の共演が話題になっているようですが、なんと作家・藤沢周平のドラマです。

  

原作は藤沢周平の娘によるものですが、ドラマを見て藤沢周平に興味を持たれた方には『藤沢周平伝』もお薦めです!