南米とナチ、そしてボラーニョ

昨晩の紀伊國屋書店新宿南店でのトークイベントについて改めて。

第三帝国』はまだ刊行されていません。このイベントのために、会場のみでの先行販売でした。ですから、あまり詳しいことを話してしまうとネタバレになってしまうので、柳原さん、都甲さんのお二人、ボラーニョについて、これまでの作品について語ってくださいました。

それにしてもこの人。正直なところ、どのくらいの人が集まるのか読めませんでした。確かに、一定数のボラーニョファン、ラテン文学ファン、海外文学ファンはいます。そういう方々にとっては待ちに待った《ボラーニョ・コレクション》の新刊。それがここでいち早く手に入るとなれば駆けつけないわけにはいかないでしょう。

という予想を立てつつも、とはいえ、そこまでする読者がどれくらいいるのか、いち早く手にするためにわざわざ新宿まで来るか、という気持ちも抱いていました。椅子は20脚くらいでしょうか、十名くらい集まれば御の字かな、という実は悲観的に見ていた自分もいました。

が、ご覧のように椅子は始まる前に既にいっぱい。立ち見の方もいらっしゃいました。その後も、遅れて来て立ち見の輪に加わる方が何名もいらっしゃいました。お店のスタッフの方の話では、イベント開始前、設営の準備をしていたら、「この本、もう買えるのですか?」と問い合わせてきた方もいたとのこと。恐らく都合が悪くてトークイベントは聴けなかったけど、本だけは買いに来た、という方もいたのではないでしょうか。いや、きっといたはずです。

 

さて、その『第三帝国』はそういう名前のボードゲームのことです。全体は主人公の日記スタイルで書かれていて、ドイツ人なのですが、カタルーニャのリゾート地を訪れています。その主人公はゲーム「第三帝国」のドイツ・チャンピオンなんだそうですが、最初のうちはゲームの話は出てきません。リゾートでダラダラ過ごす描写が続きます。そんな中、地元の人とも知り合いとなり、ひょんなことからそのうちの一人と「第三帝国」を始めることになります。

相手はそんなゲームをまるで知らないド素人、かたやドイツのチャンピオンですから、ゲームとしてはとても成り立たない感じですが、主人公がルールを教えながら対戦をすすめていくうちに、思いも寄らず相手がメキメキと上達していき云々、というストーリーです。

上の写真は、「第三帝国」そのものではありませんが、日本のゲーム雑誌に付録として付いていた、似たようなゲームのボードです。柳原さんが持参されたものです。本文中のも描写がありますが、このゲーム盤は地図の上に六角形のマス目がビッシリと描かれています。まるで蜂の巣のように。あたしが中学生のころに流行ったウォーゲームという奴です。当時クラスメートが夢中になっていたのを思い出しました。

YouTubeに上のリンクのような動画がアップされていました。どんな感じのものなのか、ご理解いただけたでしょうか? たぶん一定年齢以上の方なら、特に男性は、「ああ、あれね」と思いだしていただけると思います。

ところで、トークの中で少し話題にもなりましたが、ボラーニョの作品にはドイツ、特にナチの影が色濃いところがあります。『アメリカ大陸のナチ文学』なんてのもありますから、それははっきりしているのですが、第二世界大戦後、多くのナチ残党が南米に隠れ住んでいたということもあり、ボラーニョに限らず南米の人にとってナチやドイツは日本人の想像を超えて身近なもののようです。

またボラーニョのようにチリの政変を経ている人たちにとっては、ナチのようなファシズムを憎む気持ちを強かったのではないでしょうか。ボラーニョの作品を読んでいると、南米の作家なのに、なんでこんなにドイツが登場するのだろうと感じますが、そういった背景があるのだと思いますし、確か円城塔さんも『アメリカ大陸のナチ文学』の解説でそのようなことに触れていたと思います。

そしてこれも昨日柳原さんに教えていただいたのですが、こうしたボラーニョ作品好きなら絶対興味を示すであろう映画「コロニア」です。ウィキペディアにも既に項目ができています。主演は「ハロー・ポッター」の子ですよね?

日本では9月に公開予定です。

さて、会場の紀伊國屋書店新宿南店では先行販売だけでなく、ボラーニョの原書なども併せて展開中です。上の写真は3階の売り場の棚です。『第三帝国』の配本までは、同店でしか購入できませんので、少しでも早く読みたい方は是非!

平積みや面陳だけが並べ方ではないんだね、と改めて教えてもらった気がする

書店を回っていますと、少し前からようやく新刊『装幀の余白からv』が並び始めたようです。装幀、デザインというジャンルの本ですから、一般の文芸書とは読者層も異なるとは思います。書店からの事前の注文も少し抑え気味なところがありました。

それでもやはり新刊ですから、店内の新刊コーナーなど目立つところに置いていただいているところが少なくありません。5冊、10冊も配本があった書店なら新刊コーナーと、デザインの棚の2か所に置いているところもあります。が、上述のように1冊だけ棚に並んでいるというお店も目立ちます。

そんな中、同書が一冊だけ新刊コーナーに並んでいる某書店、しかし、その隣にはこんな本が並んでいました。

  

菊地信義の装幀』『Ōe 60年代の青春』『祖父江慎+コズフィッシュ』の三冊です。

毎日毎日大量の新刊が刊行されるこの業界、これらはそれほど古い出版物ではありませんが、必ずしも新刊とは言えません。もちろん、大型店のデザイン芸術書売り場の新刊コーナーであれば、こういった並び方、並び方を見ることはあるでしょうが、あたしが目睹した新刊コーナーは、フィクションとノンフィクションといった大まか分類はされていますが、基本的には新刊をまとめて置いてあるようなスペースです。限られたスペースですから『装幀の余白』以外の3点がいまだに新刊コーナーに置かれているとは普通では考えにくいです。

つまり、これはもう書店の方が意図的に並べたとしか思えません。たった一冊だけ配本された新刊でも、毎回毎回このように丁寧な配慮をされて置いていただけるなんて、出版社としては嬉しい限りです。というか、頭が下がります。

書評ではなくとも、ちょっとした記事などから売り上げに火が付くこともありまして……

このところの朝日新聞紙面から、あたしの勤務先の書籍と関わりがあるものをチョイスしてみました。

まずは上の写真。小栗康平監督のDVDコレクションが出るようですね。その広告です。

 

 

というわけで、同監督のエッセイ『じっとしている唄』がお薦めです。DVDコレクション全4巻は分売されているようですが、そこそこの金額になります。とりあえずはこの一冊から始めてみては如何でしょうか? もちろんDVDを鑑賞しつつ本書を手に取っていただければ幸いです。

続いては下の写真。こんどは映画ではなく演劇です。

不条理劇についての記事です。演劇に関心のない方は「不条理劇」と言われてもピンと来ないかもしれませんが、それでも『ゴドーを待ちながら』という言葉は聞いたことあるのではないでしょうか? この記事にもありますように、不条理劇の代表作というだけではなく、後世の演劇や文学作品にも多大な影響を与えた名作です。もちろん、邦訳はあたしの勤務先の刊行物です。

で、記事中のインタビューに登場している別役実さんもお世話になっている著者のお一人。

 

他社からも著作は多数出ていますが、あたしの勤務先ならこちら、ベスト&ロングセラー『別役実のコント教室』『別役実のコント検定!』がございます。