録画しておいた「恐怖ノ黒鉄扉」を視聴。
冒頭、とあるパーティーのシーン。いじめられっ子ぽい少年が騙されてパーティー会場の建物のボイラー室に閉じ込められます(会場は簡易ホテルのようなところ)。「出してくれよ」と叫ぶ少年を笑いながらいじめっ子たちは行ってしまうのですが、その後、少女たちがシャワーを使い始めボイラーが作動し、ボイラー室は温度が上がり、閉じ込められた少年はその中で生きたまま焼き殺されるという悲劇になります。
そして時は流れ15年後。男女8名くらいのグループが夜道を車で走っています。疲れもあり、仕方なくどこから泊まるところはないかと思っていたら、15年前にパーティーがあったホテルにたどりつきます。もちろん彼らは15年前の事故も知らなければ、そのホテルは現在は廃業しているので、彼らは不法侵入するわけですが、そのホテルで、彼らが何者かに一人、また一人と殺されていきます。
はい、ここまでのストーリーを考えると、ホラー映画にありがちな「酒と薬とセックスにしか興味ないような、おバカな若者のグループが何者かによって殺されまくる」というストーリー展開です。とにかく訪れた人を片っ端から殺していくという点では「悪魔のいけにえ」的な映画が予想されますが、本作の場合、冒頭にこのホテルで少年が事故死とはいえ、事実上はいじめっ子によって殺されているという冒頭のシーンがありますから、その少年の悪霊が襲ってくるのか、その少年の親族が復讐しているのか、ということになります。ただし、最初から前者的な悪霊譚の雰囲気皆無で、生身の人間が起こしている事件という感じがはっきりわかるので、「13日の金曜日」の亜流であると思われます。
そういう目で見ると、本家本元の「13金」の場合、最後まで犯人であるジェイソンの母親は出てこないわけですが、本作の場合、殺されるべき運命にある若者たち以外の登場人物は、ホテルへ向かう前に燃料と食料の補給に立ち寄ったガソリンスタンドのおばちゃん、それとそこに居合わせた警察官しか出てきません。順当に行けば、このおばちゃんが15年前の少年の母親なのでしょうが、登場シーンではほとんど異常さは出てきません。カメラワークにしろ演技にしろ、この人が犯人と思わせるようなものは感じられません。
で、ホテルに忍び込んだ若者たち。一人ずつ殺され、残った四人は他の仲間が殺されたことを知りホテルから逃げようとするのですが、殺人鬼に先回りされ(というか、廃業したホテルは殺人鬼にとっては自分の庭のような勝手知ったる場所)まずは二人が血祭りに上げられます。殺人鬼としてはここで四人とも殺して起きたかったような感じですが、そこは映画ですからヒロインである女の子と、彼女に恋する奥手の男の子はうまいこと生き延びます。そして街道まで逃げたところで地元民の車に助けられます。すべての他人が怪しい、こいつが殺人鬼なんじゃないかと疑う男の子に対し、ヒロインは肝っ玉が据わっているのか、その車に乗せてもらい街まで連れて行ってもらうことにします。
最初から見ていると、「もしかしてこのオヤジが犯人? 確かに事故死した少年の父親っていう線もあるよね」という可能性は残っています。確か「ラストサマー」は犯人は殺された少年の父親だったはずですから。ところが、途中で車がパンクします。これも犯人によってパンクさせられたわけで、オヤジがタイヤを交換しているときに、車に積まれていた仲間の荷物を発見したヒロインたちは「やはりこのオヤジが殺人鬼?」と思い込んでしまい、男の子は荷物の中に入っていた拳銃を持ち、オヤジと相対します。このあたり、真犯人が密かに荷物を車に置いたシーンがあるので、見ているわれわれは「ちょっと待て、そのオヤジは真犯人じゃない。君たちははめられているんだ」と言いたくなりますが、ここで一つ疑問。
殺人鬼は、ヒロインたち二人がホテルから脱出できると予想していたのかということです。だって、車に乗せてくれたオヤジは真犯人ではなく、どうやら全くの善意の第三者のようです。仮にホテルを脱出できる若者がいることを真犯人が予想していたとしても、運良く車が通るということまでは予想できないと思いますし、ましてやその車の進む先に釘か何かを仕掛けておいてパンクさせるなんてところまで考えが回るとは思えません。それに、真犯人、ジェイソン並みのフットワークです。
話は映画に戻ります。結局、男の子とオヤジは、オヤジもライフを持っていたので相撃ちなります。一人取り残されたヒロインはなんとか最初のガソリンスタンドにたどりつきます。そこであのおばさんに介抱してもらうのですが、徐々におばさんの様子がおかしくなり、自分の息子が殺されたいきさつを話し始めたところでヒロインもすべてを察します。その前段階として、ヒロインたちはホテルの中で15年前の事故と、その後もこのホテルで若者が殺されるという事件が続いているという新聞の切り抜きを発見しているので、家族による復讐だとはわかっていたとは思いますが……
最後にヒロインと犯人であるおばさんとの戦いになりますが、おばさんの武器であるネイルガンを奪ったヒロインがおばさんにそれを向けた刹那、駆けつけた警察官がヒロインを射殺して終わりです。はい、若者たちは誰一人助からなかったのです。そしてまた疑問。ホテルで殺人事件が続けば、当然のことながら近所のガソリンスタンドのおばさんにも嫌疑がかかると思います。あの殺し方を見ているといくらでも証拠は残っていそうなのですが、スペインの田舎ではそんな徹底的な操作は行なわれなかったのでしょうか? あるいは最後にヒロインを売った警察官はグルなのか? これは本編を見ているだけではわかりませんでした。
というわけで、母親による復讐譚、それも直接息子を殺した連中だけでなく、遊びまくっている若者すべてに憎しみを拡大しているところは狂っているとしか思えないし、まさしく「13金」。ただ、「13金」ほどの緊張感はなく、そもそも犯人が一人では不可能な描写が多すぎるような。「13金」の亜流なので、13日だけど金曜日ではなく日曜日に鑑賞するにはちょうどよかったのかも知れません。
ちなみに邦題では「恐怖ノ黒電話」「恐怖ノ黒洋館」とシリーズのような括りになっていますが、まるっきり別ものです。そして「黒電話」の方は見たことがあります。