昨夕は、ジュンク堂書店池袋本店にてのイベント「本、書店、そして中国」へ行って来ました。講師は、東方書店の元店長の田村さん。あたしが学生時代に東方書店でアルバイトをしていたころ、神保町すずらん通りのお店の店長でした。いや、あの頃は神崎さんが店長だったかしら? とにかく、昔から縁のある方です。
話は東方書店の沿革と田村さんが従事されていた仕事内容についてが主でした。あたしも東方書店でアルバイトをしていたので多少は知っている話もありましたが、知らないことも多く、楽しいひとときでした。
で、このダイアリーを読んでくださっている方の中には「東方書店って何?」という方もいらっしゃるかと思いますので、昨夕のイベントのメモに基づきながら、軽くご紹介します。
もともとは極東書店という、言ってみれば左寄りの書店があったわけです。それが1966年に中国で文革(プロレタリア文化大革命)が始まるに及んで、ソ連寄りと中国寄りとで分裂し、中国派が分かれて立ち上げたのが東方書店です。ですから、東方書店はその設立当初から日中友好というのがDNAとして埋め込まれている書店なのです。
ただし、できた当初は文革真っ只中。はじめはプロパガンダ商品を主に扱っていたようです。毛沢東語録とか文革礼讃ポスターなどを輸入販売していたのでしょうか? あたしも知りませんが、あのころは文革を指示する日本の知識人もそれなりにいたので、ある程度の需要はあったのでしょうね。
あとは、中国から輸入した物産を扱っていて、デパートなどで行なわれる物産展に出展することもあったそうです。今からはとても考えられない総合商社ぶりです(笑)。まあ、食材や文房四宝などは当時でも売れたのではないでしょうか?
その後、文革も終わると徐々に書籍も入ってきたようですが、売り上げの柱になっていたのは書道用品だったそうです。当時はお店の一角で書道用品を扱っていて、固定客も着いていたそうです。そして墨や硯などの骨董的な高級品も飛ぶように売れていたのだとか。確か、あたしが学生のころは、お店で書道用品を扱っていたのをうっすらと覚えています。
中国ブームが到来しつつあるものの、肝心な語学書は光生館や東方書店が、中国で作られた外国人向けの中国語学習書を翻訳して発行している程度で、現在とは比較にならないほどアイテムが乏しかったようです。その後は、企業の中国進出向けの本、中国人とのトラブル解決法や付き合い方の本などが売れるように推移してきたそうです。
現在の東方書店は、中国で作られた学術雑誌のデータベースなどの販売にも乗りだしつつも、店舗での中国関連書籍の販売を続けています。あたしが学生のころ、神保町周辺には中国からの輸入書籍が扱う書店が東方書店の他にもいくつかあり、授業の後や土曜日にそういった書店巡りをするのが楽しみでもありました。現在ではすずらん通りで斜めに向かい合う東方書店と内山書店くらいしか残っていないのが残念です。
中国からの輸入書籍を扱うお店がそんなに揃っていて共倒れにならないの、という疑問もあるかと思います。もちろん現在はなくなっているお店があるわけですから共倒れしたと言えなくもないですし、そもそも中国関係に限らず書店全般、出版界全般が右肩下がりですから致し方ないです。ただ、それでも内山と東方があると言うことは、中国好きにとっては「神保町まで行ってみるか」というきっかけを与えてくれることになると思います。これがどちらか一店舗だけしかなかったら、わざわざ出向くのも面倒と思ってしまうでしょうけど、二つあれば行こうという気持ちも起こるのではないでしょうか? それに中国からの輸入書ではありませんが、漢籍などの古書を扱うお店も神保町には何店舗かあります。周恩来ゆかりの中国料理屋もありますし、冷し中華発祥のお店も神保町にあります。あとは中華街にあるような気の利いた中国雑貨屋が二つ三つあればよいのに、と個人的には思います。
閑話休題。
来客からの質問にもありましたが、内山書店と東方書店。すぐ近くに向かい合って存在する似たような書店ではあり、お互いどうなのかという点ですが、使う側からすると、思想、歴史に強いのが東方書店、文学、特に現代文学に強いのが内山書店、という色があります。あたしが学生のころには芸術系が充実していた中華書店、思わぬ掘り出し物が時に見つかる亜当書店、医学系が強かった燎原書店という棲み分けというか、特色が各店にあったものです。
さて、今回のイベント。ジュンク堂書店の担当の方の弁では、ジュンクのような大型店に対して、街の書店、セレクト型書店などが書店の形態として生まれてきているけれど、あるジャンルに特化した東方書店のような書店はとはどんなものなのかに興味を持たれたからやることになったそうです。
考えてみますと、中国に特化した東方書店(や内山書店)というのは、ずいぶん前からやっているセレクト型書店と言えなくもありません。田村さんも述べていましたが、中国語の学習書にしろ、中国史関係の書籍にしろ、恐らく東方書店の店頭よりジュンク堂の店頭の方が品揃えは勝っているでしょう。それでも東方書店が便利であり優れているのは、広くないからこそ中国関係のものはそこへ行けばほぼほぼ揃ってしまう簡便さです。
中国関係の書籍といえば、あたしなどは雑食なので中国の小説も読みますし、歴史関係の研究書とまではないかなくても、やや堅めの本も読みます。中国旅行記のようなエッセイも読めば中国語の語学書にも食指は動きます。中国ビジネスこそあまり読んだり買ったりはしませんが、ジュンク堂書店ですと、これらの書籍は広い店内に散在しています。しかし東方書店や内山書店ですと、数十歩も歩けば見て回れる範囲に揃っています。なおかつ、ジュンク堂や紀伊国屋ではほぼ扱っていない、中国や台湾、香港からの輸入書も一緒に置いてあるわけですから、中国好きにとっても面白くないわけがありません。
一番顕著なのは、中国関係の書籍がよく刊行される文庫・新書ではないでしょうか? いまや数え切れないほどのレーベルがあり、そこから毎月何かしら中国関係の新刊が出ています。ジュンク堂だと各文庫・新書の棚を巡ってその中から中国関係の本を捜していかなければなりませんが、東方書店ならそれらだけをまとめて置いてくれていますので、文庫や新書のレーベルを回遊する手間が省けます。
こればかりはネット書店の検索機能でもうまいことできませんね。そもそも「中国」と入れると「岡山・広島」といった「中国地方」の書籍もヒットしてしまいますので(汗)。そんなところが、リアル書店のよさであり、東方書店の存在意義なんだと思います。