『グラウンド・ゼロ 台湾第四原発事故』の著者、伊格言さんが来日中です。
今日も午後から、こんどは下北沢のB&Bでイベントがありますが、まずは昨日の台湾文化センターでのイベントについて。ちなみに、台湾文化センターの場所は虎ノ門、台北駐日経済文化代表処がある白金台ではありませんのでご注意ください。
さて、昨日の対談相手は『岩場の上から』の黒川創さん。簡単に昨日を振り返りますと、まずはセンター長のご挨拶、続いて訳者・倉本さんの作品紹介、続いて伊格言さん、黒川さんのミニ講演、最後に伊格言さんと黒川さんのミニ対談に質疑応答という流れでした。
冒頭、センター長の挨拶では、このところ台湾関係の書籍の刊行が続いている白水社に対して過分な御礼の言葉があり、特に新総統誕生に合わせて『蔡英文 新時代の台湾へ』を刊行したり、台湾の脱原発宣言のタイミングで本書を刊行したりと、非常にタイミングもよいとのこと。
続いて伊格言さんの講演演題は「私使用的媒材是文字、以及現実」というもの。まずは前総統・馬英九にまつわる「死の握手」の話題から。彼と握手をした人には軒並み不幸が訪れるそうで、国共両党首の歴史的会談となった習近平との握手写真では毒舌もチラリ、そして馬英九は日本の安倍総理とも握手しているのですが、なぜか安倍には不幸が訪れないと語って笑いを誘っていました。「死の握手」、日本語で言うなら「デス握手」といったところでしょうね。
話はデュシャンの「泉」に及び、ただの便器を美術館に展示することで美術品にしてしまうところに、伊格言さんは非常に興味を持たれたそうで、こういった取り組みが伊格言さんの創作活動にインスピレーションを与えているようです。
『グラウンド・ゼロ』は台湾で反原発運動が盛り上がった2013年の執筆で、できるだけ現実に近づけるように書いたとのこと。そうすることによって現実からのリアクションを期待したわけで、いわゆるパフォーマンス・アートだそうです。そんな現実とのインタラクティブを試みた本書が、こんどは日本でどんなリアクションを生み出すのか、非常に楽しみであるそうです。本書の世界は、日本人から見たら遠い国の出来事に感じられるかも知れないが、言うまでもなく『グラウンド・ゼロ』は福島の事故に着想を得て書かれた作品であり、台湾電力よりも東京電力の方がはるかに悪い会社なのではないでしょうか、とも話されました。
黒川さんは、ご自身の若い頃の体験、特にハンフォードを訪れたときのことを印象深く話してくれました。『岩場の上から』は、時間を30年後に設定して書いたが、現在のことだと思って読んでもらうと実感が湧くのではないかとのこと。また、近未来には核廃棄物をクリーンなものにする技術が開発されているという世界をSFで描くこともできなくはないが、自分はそういうものは書かないとも。
さて、トークを聞いていてあたしなりに感じたことですが……
まず、『グラウンド・ゼロ』では原発事故が起こり、台湾の北部3分の1か、4分の1が立ち入り禁止になり、もちろんそこには首都・台北も含まれているので、台湾は台南に遷都したことになっています。そして憲法も停止され、総統選挙も延期されている世界です。仮に日本を舞台にした場合、首都圏が立ち入り禁止になるような非常事態が起こった場合、憲法停止のようなことまで踏み出すことができるのかな、と思います。そんな状態でも日本なら非常事態宣言は出さずに行くのではないか、そう予想するのですが、最近の自民党政権はやたらと権力を振り回したい輩が多いようなので、これ幸いと非常事態宣言を発令するかも知れませんね。台湾でこうした設定が可能なのは、少し前まで戒厳令が敷かれていたという歴史が身近だからなのでしょうか?
ちょっとそんなことを思いました。