モービーディック

引き続き、こんどは「白鯨との闘い」を視聴。かの名作「白鯨」が小説として出来上がる過程、その真実の物語という触れ込みだったと記憶していますが……

 

確かに、ストーリーの大枠は作家メルヴィルが白鯨との闘いから生還した男性を訪ね、その本当はどうであったのかを聞き出すという話で、その男性が語った内容が映画のメインとなっています。あたし、そもそも原作の『白鯨』は読んだことがなく、グレゴリー・ペックの「白鯨」をテレビで見たことがあるくらいです。なので原作と映画がどのくらい異なるのかは知りません。

 

そういう前提で二つの映画を比べますと、「白鯨」は完全にエイハブ船長と白鯨の死闘に焦点が合っている感じですが、「白鯨との闘い」は白鯨と出逢ったのは偶然で、特に船長と白鯨とに因縁があったわけではありません。

むしろ後者の主眼は極限状態のサバイバル劇、そこには人肉食も描かれ、それが生き延びた者たちの原罪のように重くのしかかっています。またメルヴィルに語り終えた男が語る石油の発見のエピソードは、鯨油を求めて血眼になっていた彼らの時代が遠い過去のものになっていることを示していて寂しい感じもします。

この映画が反捕鯨映画なんだとか、そういう話もあるようですが、映画を見た限りではそんな印象を受けませんでした。すべてをきれいに利用して捨てるところのほとんどない日本の捕鯨に比べ、油を取りたいだけの欧米の捕鯨という見方も、日本人なら可能かも知れませんが、一般の西洋人にそういう視点があるのか否か……。むしろ当時においては捕鯨は大切かつ重要な産業であり、男たちはそれに命を懸けていたということが熱く描かれていたと感じました。そしてそんな命を懸けて海に出て行く男たちの後ろには、自分たちは危険な立場に身をさらすことなく濡れ手に粟で儲けているイヤな連中が、いつの時代にも存在するのだというがわかります。