アメリカではピエロの姿をした殺人鬼が犯行を繰り返しているというニュースもある中、こんな映画を見るなんて不謹慎かもしれませんが、これがWOWOWで放送されたのはそんな事件が起こる前でしたので、WOWOWもまさか実際に事件が起こるとは思ってもいなかったでしょう。
閑話休題。
ストーリーはなかなか物悲しいです。息子の誕生日に出張ピエロを頼んでいたのに、業者の都合でドタキャン。不動産販売の仕事をしている父親は、たまたま扱っていた物件のクローゼットにピエロの扮装があるのを発見し、それを着て、代わりのピエロに扮して息子の誕生日を盛り上げます。
ここまではよき父親。とても微笑ましいストーリーです。が、このピエロの扮装、実は曰く付きの代物で、主人公はカツラ、赤い鼻、衣裳が脱げなくなってしまったのです。どうやっても脱げず、物件の持ち主を調べてみると既に死亡。しかし、持ち主の弟を見つけ出し、窮状を説明します。
そこで主人公が聞かされたのは恐ろしい物語。その昔、ピエロは道化師などではなく、こどもを喰らう化け物、悪魔で、この衣裳は衣裳ではなく、悪魔の髪や皮膚であり、これを来たら最後、脱ぐことは出来ず、悪魔に変わってしまう、というもの。徐々に悪魔に変わっていく夫、それを何とか助けようとする妻。周囲の人は、そんな話をほとんど信じようとしません。
それでも妻は諦めず、衣裳の持ち主だった故人の弟を訪ねます。主人公は徐々に変わっていく自分が恐ろしくなって、妻の前から姿を消します。自殺を図ろうとするも、悪魔ですから死にません。お腹が空くとこどもを襲い食べてしまう主人公。このあたりの描写はなかなかグロテスクです。
さて、元の持ち主の弟もかつてこの衣裳を着てしまい脱げなくなり、悪魔に変身しかかったことがあったそうです。それがどうして助かったのか? 兄はどうやって弟を助けたのか? それは神話のとおり、こどもを五人、いけにえに差し出したからだったのです。そして、ようやく主人公を見つけ出した妻に対し、主人公(悪魔に魂を乗っ取られている!)は息子を提供することを要求します。
なんとか息子を助けたい、だけど夫も助けたいと悩む妻。ここで妻はちょっと気がふれたのか、たまたま車に乗り合わせた少女をいけにえに差し出そうと思います。魔が差したというのでしょうね。でも、こんな行動、周囲からみたら「夫が悪魔に乗っ取られた」と意味不明なことを言っているイカれた女にしか見えないでしょう。
そしてラスト。とうとう自分の息子を襲う夫。姿形は完全に白塗りのモンスター。妻も必死に闘います。衣裳の持ち主の弟が教えてくれていた解決方法は、こどもを5人いけにえに差し出すか、首を切り落とすか、二つに一つ。自分のこどもを差し出すわけにはいかないし、かといって他人のこどもを差し出すような余裕もないし、正気を取り戻した妻にそんな選択肢はありえません。かといって夫の首を切り落とすなんて……
と、心の中では葛藤しているのでしょうけど、目の前のモンスターは自分の息子を遠慮なく襲ってきます。このままでは愛する息子が喰われてしまう。狙ったのか、物の弾みなのか、乾坤一擲、妻の一撃で夫、というか悪魔の首が切り落とされ、ジ・エンド。が、この手のホラーの常道手段。悪魔は死んではおらず、モンスターの手が息子の足をつかみます。実は首が完全には切断されていなかったのです。まさに首の皮一枚で繋がっていたモンスターの首を、妻が最後の力を振り絞り完全に引きちぎって、こんどこそ本当にジ・エンド。モンスターの頭部は、ピエロの仮面が剥がれ、中から夫の顔がのぞきますが、首を切り落とされている以上、助かるわけはありません。
この映画、夫は何も悪いことはしていないんですよね。そりゃ悪魔に取り憑かれてからこどもを何人か食べていますが、あれは悪魔の仕業であって夫がやったわけではありません。ピエロの衣裳だって、息子を喜ばせたい一心で、扱う物件からちょっと借りただけで悪意も何もありません。基本的にはよき夫、よき父親の主人公が、何の因果か悪魔の衣裳を着てしまったために死ぬ(殺される)羽目に陥ったわけで、ちょっと救いがありません。
ちなみに、今回のタイトルは欅坂46の渡辺梨加の「ん~、カメラ、怖い~」というギャグ(?)をもじりました。