『盆栽』著者、来日イベント@セルバンテス文化センター

火曜日の晩、東京は市ヶ谷にあるセルバンテス文化センターで、『盆栽/木々の私生活』の著者アレハンドロ・サンブラさんのトークイベントがありました。著者来日というのは、海外文学の場合なかなか稀なことですが、今年はちょっと当たり年ですね。

あいにくの空模様でしたが、熱心な方々、およそ50名ほどが来場していました。その半分、3分の1くらいはネイティブ、残りの日本人もほぼ全員スペイン語に堪能な方ばかりのようで、英語すらチンプンカンプンのあたしなどまるっきり浮いていました。それでも同時通訳があったので、とても愉しく興味深い内容のイベントでした。以下、手元のメモから、イベントの内容を少しご紹介します。あくまで通訳を介しての、なおかつ聞きながらのメモですので、あたしの聞き間違いや理解不足は多々あると思いますので、その点はあらかじめご了承ください。

さて、この『盆栽』、当初は詩を書くつもりでいたけれど、なかなか書き上げられないので、小説にしてみたら出来上がった作品だそうです。ただしチリでは相手にされず、スペインの出版社が興味を締めてしてくれて出版にこぎ着けた、とのことです。ただ、スペインで出版できたからこそ世界的に成功できたと思うので、全く予想していなかった展開だったそうです。

上にもあるように、邦訳の『盆栽』は表紙に盆栽のイラストをあしらっていますが、最初にスペインで出した時も凡才を表紙に使っていたそうです。が、邦訳のイラストを気に入って、今ではスペイン語版も邦訳のイラストを転用しているとのこと(現物未見ですが……)。

 

サンブラさんの小説の執筆態度は、スケッチを描くような書き方だそうです。つまり、何度も何度も書き直しながら仕上げていくわけで、それは病気を治療するような感じであるとは本人の弁。また同作は既に映画化されているのですが、まさか映画化されるとは想いもしなかったというのが最初の感想だったそうで、狂気の沙汰ではないかとも思ったそうです。

また映画は小説とは別のものなので少し距離をおいていたとも語っていて、『盆栽』という作品を使って監督が言いたいことを表現したものだと感じているそうで、作品を奪われるという気持ちもあったけど、決して嫌な気持ちではなかったそうです。作品に対して自分にはできない解釈を監督がしてくれたので自分の世界も広がった楽しい体験ではあったけれど、奪われたという感覚があったのも確かで、喜びと落胆という矛盾した気持ちだそうです。ただし、原書は40分もあれば読めてしまう長さなのに、映画は90分もあるという不思議な関係(たいていは原作を読む方が時間がかかる)だと言って会場を笑わせていました。

「盆栽」は自然に手を加えるものであるので、痛みを伴うものであり、最初は当惑した気持ちを抱いてたそうです。自分も盆栽を育ててみたことはあるが、最初の盆栽は友達からのプレゼントだったけれど、枯らしてしまったそうです。チリでは90年代に盆栽ブームがあったそうですが、気軽に買っては枯らしてしまう人も多かったようです。

サンブラさん自身、盆栽を初めとして日本文化にはとても興味を持っていて、文学者では川端康成、谷崎潤一郎、三島由紀夫、大江健三郎、安部公房などが好きなようですが、繰り返し読んでいるのは『枕草子』だそうです。また映画では小津安二郎の作品が好きだと語っていました。94年に大学に入学した当時、その大学には日本文学などのコースがなく、その後開設されたそうで、もし自分が入学時に存在していたらきっと専攻していただろうとのこと。

まだ邦訳されていない新作の『選択肢』について、大学入試をパロディー化したもので、入試問題(=選択肢)という、ある意味、文学とは対極にあるものを題材にしてみた。自分の受験時代、何を学んでいるのか、何のために学んでいるのかわからなくなり、そんな受験勉強を小説化してみたものだそうです。

とまあ、ざっと以上のような感じです。

そんなイベントのあった当日、あたしのネクタイはこんな柄でした。別に『盆栽』のカバーイラストを意識したわけではないのですが、当日来場されたチリ大使が開口一番、あたしのネクタイを指さして、カバーと同じだと喜んでくださいました。