書店で海外文学のコーナーを見ると、エクス・リブリスの新刊『ミニチュアの妻』が目に飛び込んできます。
やはり、この装丁は印象的で、「あれ?」と思わず手に取ってもらえるものだと思います。総じて、書店員さんの印象は「カワイイよね」というもの。確かに、レゴで作られた街の風景はほのぼのとした印象を与えますし、「ミニチュアの妻」という言葉から喚起されるイメージにもピッタリなのだと思います。
が、この装丁とタイトルから、かなりメルヘンチックなストーリーを想像している方が多いようなので、余計なお世話と言われるかも知れませんが、ここでちょっとレクチャーを。
まずはウェブサイトに書いてある内容紹介を見てみましょう。
妻をミニチュア化してしまった男の語りによる家庭劇。小型化を専門とする仕事に従事する語り手は、どういうわけか偶然、家で妻をマグカップ大に縮めてしま う。家庭に仕事は持ち込まないと誓ったのに……と、いささか的外れな後悔の念を覚えつつ、主人公は妻を元に戻すべく悪戦苦闘する。
うーん、これだけを読むと、確かにほのぼの系でしょうかね。どうやって小型化するのか、そういったことは何も書いていません。ただ、小型化する方法は何通りかあるみたいで、それぞれによって元に戻す方法も異なるらしいです。彼の妻の場合、偶然小型化してしまった、つまり彼が意図せずして小型化してしまったので、どの方法で小型化したのかわからないため、元へ戻す方法もわからないようなのです。
だったら、一つ一つ元に戻す方法を試せばよいではないか、という意見もあるでしょうが、そのあたりも作品中で触れていまして、誤った方法で元へ戻そうとすると、元へ戻せなくなってしまうらしいのです。つまり元へ戻す方法を試すのは一か八か、小型化の方法が何通りあるかは書いていませんでしたが、成功するのはその何通り分の一の確率なのです。愛する妻に対して、そんな危険な賭けに出るなんて出来ませんから、彼の悩みは深いのです。
仕方なく、彼は小型化してしまった妻のために、ミニチュアの家を作ってあげます。こういう職業の彼ですから、ものすごく完成度の高いミニチュアハウスが出来上がります。それこそ、実際の家よりもよほど住み心地がよいのではないかという思えるほどの出来栄えです。まるでシルバニア・ファミリーのようです、と言ったらかえって陳腐に聞こえてしまうでしょうか。
急いで妻を元に戻さなければなりませんが、これでしばらくは妻も快適に小型化ライフを送れるはずと彼は思うわけですが、実は肝心の妻が出てきません。小型化された妻は確かに存在していて、ミニチュアの家を利用していることは確かなのですが、彼は妻の姿を確認できなくなってしまいます。
確かに家の中にいる妻。小さくされてしまった彼女が彼に対して採った行動は……
これ以上は書けません。完全なネタバレになってしまいます。ただ、「南くんの恋人」的な甘いストーリーでないことは確かです。「えっ、この設定でこんなストーリーになってしまうの?」という後半です。あたしは驚きの連続でした。
最初に読み終わったとき、この作品の隠されたテーマはイプセンの『人形の家』に通じるものなのかな、とも思いましたが、時間がたつにつれ、それともちょっと違うなあ、と思えてきました。正解などないのでしょうが、人によって、この作品の結末の解釈(評価)も異なるのではないでしょうか?