ヒュームの知名度は?

既にあたしの勤務先の新刊情報のページに登場していますが、年明けの新刊に『デイヴィッド・ヒューム 哲学から歴史へ』があります。著者は『アダム・スミスとその時代』のニコラス・フィリップソン。同書でもヒュームはしばしば登場していて、既に読まれた方ならこの新刊も読まずには、買わずにはいられないと思います。

ところで、デイヴィッド・ヒュームってどの程度の知名度なのでしょう? そもそもが「哲学なんて難しくてわからないよ」という方が多いとは思いますが、多少なりとも興味のある方にとってヒュームがどの程度知られているのか?

はっきり言いまして、日本ではこれまで、まるきり知られていないわけではなかったですが、決してメジャーな哲学者、思想家であったとは言いがたいと思います。西洋哲学史と言えば、ソクラテスやプラトン、アリストテレスなどの古代ギリシャに始まって、中世はなんとなくキリスト教の全盛期という感じで、その後はカントやルソー、ヘーゲル、マルクス、ニーチェといった有名どころが登場し、つい最近のサルトル、ハイデガーなどへ連なるというのが一般的な流れでしょう。そういう中ではヒュームの知名度は、申し訳ありませんが、かなり低いと言わざるを得ないところです。

もちろん日本で未紹介というわけではなく、ヒュームに関する本はそれなりに刊行されています。先日、新宿の紀伊國屋書店で「ヒューム」の棚を見ましたら、以下のような書籍が並んでいました。


  

  

 

襤褸を纏った徳』『ヒューム研究』『人間知性研究』『ヒューム希望の懐疑主義』『政治論集』『自然宗教に関する対話』『宗教の自然史』『ヒューム社会科学の基礎』『ヒューム体系の哲学的基礎

これだけ出ているわけですから、決してマイナーな哲学者ではないはずですが、いずれも研究書、専門書であって一般の方が手に取って読むにはハードルが高いものばかりです。そんなヒュームですが、柏書房の『哲学と対決する!』ではかなり重要な哲学者として取り上げられています。

本書の帯には「お気に入りの哲学者は誰かと64人の哲学者にきいたところ、一番人気は意外にも……」とあります。さて、誰が一番人気なのでしょう? このように話題を提供すれば、当然のことながら、ヒュームも思いのほか高い順位にいると予想されますよね?

はい、本文にはこうあります。

過去数年間、私たちは出会った哲学者たちに、事前の通告を一切しないで、「あなたのお気に入りの哲学者は誰ですか? その理由は?」という単純な質問をしてきた。最初に名前が挙がったのは、一八世紀に活躍したスコットランド人デイヴィッド・ヒュームだった。これはそれほど驚くことではなかったが、彼が首位に挙げられる頻度の多さには驚いた。彼が選ばれたのは私たちが集めたサンプルの二〇パーセント以上にのぼったのだ。プラトン、アリストテレス、デカルト、カント、ミル、ニーチェ、ウィトゲンシュタインといった他の著名な哲学者もよく名前を挙げられたが、その頻度はヒュームには遠く及ばなかった。(P.010)

なんと、ヒュームが堂々の第一位だったのです。本書の著者がイギリス人であり、本書がもともとイギリスで刊行された本であるということを差し引いたとしても、ヒュームのこの順位は日本での知名度とは明らかに乖離していると思います。

いや、そうではなく、もしかすると日本ではヒュームの評価そして知名度が不当に低いのかもしれません。たぶん専門家に言わせれば、それにはそれなりの理由があるのでしょうけど、やはり手頃な入門書がない、というのが一番大きかったのではないでしょうか。今のところ、入門書と言えそうなのは清水書院の『ヒューム』とちくま学芸文庫の『ヒューム』だけではないでしょうか?

 

これらも入門書というにはまだハードルが高い本です。そこで、いよいよ年明けに刊行になる『デイヴィッド・ヒューム 哲学から歴史へ』が恰好の入門書になると言えます。単行本ですので、文庫や新書のような物体としての手軽さでは難があるかもしれませんが、内容では間違いなく決定版です。値段も本体価格2200円と、比較的安価です。日本でヒュームに注目が集まるきっかけとなれるとよいのですが……