東京には書店がない?

正月明け早々に霞ヶ関にある書原が閉店するそうです。書原と言えば阿佐ヶ谷にあるお店があまりにも有名ですが、全部で6店舗あり、それぞれのお店も阿佐ヶ谷店に負けず劣らず、個性的で「いかにも書原」という感じがとても好きでした。そんな書原の中でも都心に立地する霞ヶ関店が閉店とはたいへん残念です。

さて、あの界隈、小さな書店はあるのでしょうが、あるいは官公庁の庁舎内にも売店的な本屋はあるのでしょうけど、街の本屋がほとんど見当たりませんね。書原から少し歩いたところにある虎ノ門書房、日比谷公園近くのジュンク堂書店くらいでしょうか?

それだけあれば十分だろ、という意見もごもっともです。全国的には「本屋のない自治体」がたくさんあるわけですから、東京で書店が一つ二つ閉店しても他の書店がいくらだってあるじゃない、という意見は確かにその通りです。

でも、クルマ社会の地方と違って、確かに渋滞はしていますが、一般には電車と徒歩の社会である東京は、会社や自宅の最寄りに書店がないと、わざわざ歩いて遠くの書店まで行くのはかなりたいへんです。いや何キロも歩くわけではありませんが、気分の問題と言ってもよいでしょう。ただ時間に追われる東京人、短い昼休みに遠くの本屋まで歩いて行く時間はなかなか取れないのが実情です。

だったら会社が終わってから? それも案外気分的には遠いものです。オフィスと最寄り駅の間に本屋があるのであれば問題ないですが、わざわざ遠回りして本屋に立ち寄るというのは、どうしても手に入れたい本があるときでないと実行に移すことはありません。通勤経路上にあるからフラッと立ち寄るのであって、そうでなければ本屋までわざわざ行く人は限られます。

特に、なまじ路線がたくさんあり、ほとんどの人が定期券で通勤している実情を考えると、本屋のためだけに最寄り駅ではない駅へ行ったり、定期券区間外の駅を利用するというのは考えにくいものです。贅沢な話ですが、一ブロックに一つずつ書店がないと困るものなのです。

そういう点から考えますと、前にも書いたかもしれませんが、東京では銀座四丁目の交差点から新橋に書けて賀書店の空白地帯です。辛うじて四丁目交差点に教文館ブックファーストがありますが、それ以南には書店と言えるような本屋はないと言ってよいでしょう。かつてはちょっと離れていましたが旭屋書店があり、アイドルのサイン会やお渡し会で有名だった福家書店がありましたが、どちらもずいぶん前に閉店しています。新橋にも書原や文教堂があったのですが、それもやはりずいぶん前に閉店したっきりです。

このあたり、ご存じのようにたくさんのオフィスがあります。働いている人の人数も相当な数になるはずです。こういう言い方をしたら失礼かも知れませんが、昼間の人口だけで言えば、本屋がない地方自治体と変わらないのではないでしょうか? 銀座から新橋にかけての地域だけではありません。ターミナルに超大型書店が集中する東京ですが、山手線内を仔細にみてみると、このように書店の空白地区ってかなりあるものです。周辺にはたくさんの人が働いているわけですから、それなりの需要はあるはずですが、そういう人たちはどこで本を買っているのでしょうか? アマゾンでしょうか? それとも、もう本を買うのは諦めているのでしょうか?

東京って前からそうだったの? と言われれば、否と答えます。以前は小さいけれど、いわゆる街の書店がもっとあちこちにありました。もちろん、今でも数多くの書店が頑張っていますが、そういう書店がこの十年近い間に数多く消えていったのも事実です。「借りているのではなく、自前の土地と建物だからやってられる」というセリフもよく聞くように、東京は家賃が高く、とても書店が入居できるようなレベルではありません。特にオリンピックを見越して、また高度経済成長以来の建築物の老朽化から、どんどん新しいビルが出来ています。でも新しいから家賃はますます高くなるわけで、そうなると本屋はとても入れなくなる、という悪循環です。上に挙げた「自前だから」という書店も、自前だからこそ本屋を辞めて他に貸す、ビルを建て替えて別なテナントを入居させる、ということになって、書店がますます消えていく一因にもなっています。

ある書店の店長さんが話してくれました。「昔は、そこそこ高い本でも買ってくれるお客さんがいたんだけど、そういう人たちがみんな定年退職して、このあたりからいなくなっちゃって……」そういう世代に代わって、いま働いている若い世代はそこまで本を買わないようですね。あるいは本を買うときはネットか、新宿や丸の内の大型書店へ行くようで、小さな街の本屋には来なくなっているそうです。

うーん、あたしは東京生まれ東京育ちなので地方の実情までは理解できていませんが、これだけ人が住んでいる大都会・東京の書店ロスも深刻な問題なのではないかと思います。