営業部に遷って10年を超えたというのに、あたしはいまだに出版社営業として一人前とは見做されていないのでしょうか?

最近の話です。

郊外の、とある書店に営業へ行きました。バックルームで入店証をもらい売り場へ行くというスタイルのその書店、バックルーム前の廊下にはお店の人でもなければ、出版社の営業マンでもない人が何人かいました。見るからに学生という感じ。何だろうと思ってみていましたが、すぐに理由がわかりました。

その書店はチェーン店の一つなのですが、そのチェーンで近々新規店がオープンするので、新店のバイト面接をその店でやっていたわけです。あたしが見たのはそれに応募して面接を受けに来た人ということです。

あたしの方はいつものように営業を終え、再びバックルームへ戻ってきて入店証を返し辞去しようと思っていたのですが、その廊下の壁に新店の完成予想イラストが何枚か貼ってあったので、つい眺めてしまいました。「ふーん、こんどはこういうお店ができるのか。あたしの担当エリアだからオープンしたら行かないと」などと思いながら見ていたところ、面接担当の社員の人から、「面接にいらした方ですか? ではこちらの用紙に必要事項を……」と声をかけられてしまいました。

「いや、違います。出版社の営業です」と答えたものの、あたしゃ今さっきバックルームから出てきたところですよ、それにバイトに応募するにはいささか年を食っていませんでしょうか、と心の中で思いました。

そもそもバイトの応募資格、特に年齢制限がどれくらいなのか知りませんが、あたしって意外と若く見られたのでしょうか? それでも、あたしが目撃した「いかにも学生」という若さあふれる連中とは一見して違うのがわかるはずです。あたしだって底まで若く見えるだなんて図々しいことは思っていません。

それなら、あたしはどう見えたのでしょうか? あの場所は、あたし以外にも営業に来た出版社の人間が入れ替わり立ち替わり訪れる場所ですから、お店のスタッフでなければ出版社の人間というのが相場だと思うのです。でも、あたしが声をかけられたということは、少なくとも出版社の営業には見られなかったということですよね。

うーん、情けない。

あたしって、別に営業としての貫禄が欲しいとまでは思いませんが、出入りの業者に見えないほど冴えない人間なのでしょうか? いや、確かに自分でも自覚していますが、あたしは見た目は貧相で、第一印象もよくない、否、悪いタイプですから、営業には向いていないことはわかっていますけど、それでももうかれこれ十年は営業をやっているのですが……

あえて言い訳をするならば、声をかけてきたスタッフの人はチェーンの本部から来ていた人のようで、これがもしそのお店のスタッフの方だったら何度も通っているあたしの顔に見覚えがあって、「ああ、出版社の営業さん」と認識してくれていたのではないか、とは思います。

でもでも、別に出版社の営業だと思われなくても構いません。それよりもバイトの面接に来た人間に思われたということは、あたしが、よい歳をして無職の人間に見えたということですよね? それがちょっとショックです。