目録の役割

出版社はどこもたいていは自社の出版図書目録を作っています。その出版社で出している本がすべて載っているカタログなわけですが、あたしの勤務先も毎年作っています。そしてウェブサイトなどで「今年の目録できました」などと告知をすると、営業部には読者の方から「目録が欲しいのですが…」とか、「カタログ送ってもらえますか?」といった電話が増えるようになります。

基本、目録は無料ですから、住所氏名を教えていただければ、そこへ送っていますが、昨今はこういった出版目録を紙媒体では作らなくなっている出版社が増えているようです。確かに、書籍の場合は「売るもの」ですから、何部作って何部売れればどれくらいの儲けになるか計算できます。でも、無料で配布する目録は、どのくらい作ろうと一円の儲けにもなりません。むしろ送料がかかるし、そもそも制作費がかかっていますから、手にした読者の方が何冊も本を買ってくれないと、とても見合うものではありません。ですから、インターネットが発達した現在、同じ情報ならネットを検索すれば手に入るわけですから、紙媒体では作るのをやめるという出版社が増えるのも十二分に理解できることです。

そこであたしの勤務先ですが、いまのところ紙媒体の制作をやめるという予定はありません。もちろん、こういうご時世ですから未来永劫、紙媒体の目録を作り続けるのかどうか、それはわかりません。が、当面は作り続ける予定です。なにせ、それなりに欲しいという読者の方いらっしゃるのが最大の理由です。

現在は、確かに上述のようにネットでほぼ同じ情報は手に入ります。カバー画像(装丁)などは、紙媒体の目録だと白黒になってしまうところ、ネット(ウェブサイト)ではカラーで見せることができますし、本によっては数ページのサンプルを見せている場合もあります。目次やまえがき、あとがきの一部を公開している場合だってありますから、むしろウェブの方が情報量としては多いと言えます。少なくとも紙媒体の方が情報量が多いということは、一点ごとで見ればありえません。

が、こういう目録を欲しがる人、勝手な推測ですが、電話をかけてくる方の話しぶりなどを聞いていると、ほぼネットはやっていない感じです。自宅にパソコンはあるけれど、家族が使っているだけで自分は使い方もわからない、という感じが電話越しに伝わってきます。ケータイすら持っていないような気がします。自宅の固定電話からかけてくる方が多いです。いずれも統計的な結論ではなく、あくまであたしの体験から来る推論ですが……

で、そういう方は、当然ネットで調べられるということを伝えたって意味がありません。紙の目録じゃないと調べられない、仕えないという人たちです。たぶん、コミックとか雑誌とかの目録であれば、ネットを使いこなしている人も多いのでしょうが、あたしの勤務先から出しているような本の主たる読者の方は、まだまだネットよりも紙、パソコンよりも紙、そういう方が多そうです。読者カードなどからうかがえる年齢も非常に高いですし……。そういう読者の方々に支えられている限り、そう簡単に紙の目録をやめるわけにはいきません!

さて、あたしですが、自分の勤務先はともかく、他社の目録は配布されていたらもらいますか、と聞かれたら、「最近はめっきりもらわなくなった」と答えてしまいます。こうしてネットを使っていますので、紙でなくとも調べられるからです。ですから、これほどネットが普及する以前は、目録は見つけるともらって帰るくらい、よく集めていました。

ところで、こうした目録、なぜそうなのか、もちろん理由は納得できるのですが、個人的には「どうして品切・絶版のものは載っていないのだろうか」と思います。納得できると書いた理由は言わずもがな、創業数年の出版社ならいざ知らず、ある程度の歴史を持つ出版社の場合、品切れや絶版の本まで載せていたらページ数があまりに分厚くなり制作費がかさんでしまうからです。それでもなくとも無料配布が基本の目録ですから、作り続けるとは言ってもできるだけ経費は少なく抑えたいのが出版社側の本音です。

とはいえ、文庫や新書などの目録の中には巻末に「品切れ・絶版書目一覧」などが載っているものもありましたし、それはそれで重宝していました。あたし個人としては、この品切れ、絶版のリストが役に立ったものです。でも、紙の目録の延長だからなのか、各出版社のウェブサイトで品切れや絶版の書籍まで検索できるところはほとんどありませんよね。なんででしょう?

紙ならページ数がかさむという理由でしょうけど、ウェブサイトの場合、ウェブサーバーの容量の問題さえなければ、品切れや絶版を載せるのに問題はないと思うのですが、なぜでしょう? 以前、勤務先の先輩から「品切れや絶版を載せてしまうと、それを注文してくる読者がいるから」という理由を聞いたことがありますが、それは「品切れ」とか「絶版」と表示すればよい話で、読者はそこまでバカじゃないと思います。もちろん、数百人に一人くらいは「とはいえ、一冊くらいは残っているのではないか」と思って電話をかけてくる人もいるかも知れませんが、それは「もう残っていません」と応対すればよいだけのことです。

むしろ本好きにとっては、品切れや絶版も検索できるの方がありがたいです。なぜなら「その本が確かにその出版社から出ていた」ということがはっきりすると共に、正確な書名、著者名、刊行年などがわかるので、古書を当たるにしても格段に精度が高まるというものです。それが本好きには非常にありがたいわけで、紙媒体では無理でも、ウェブサイトでは対応してくれる出版社が増えるといいなあと思います。

あたしのこの意見、あたしの独りよがりではない証拠に、このたびネット書店のいくつかで、あたしの勤務先の創業以来の出版物総目録を配信したところ非常な反響がありました。やはりこういうの需要があるのですね。

『白水社 百年のあゆみ』
紀伊國屋書店
honto
楽天ブックス
ebookjapan

上記にリンクを貼っておきますので、ご興味をお持ちの方は是非どうぞ!