ソクヘン

この数年、書店のPOSレジ化が進みました。

どういうことかと言いますと、何の本が、いつ、何冊売れたのかがデータとして記録されるということです。スーパーやコンビニなど既に早くから導入され、どの店舗にはどんな商品を置いたらよいのか、かなりデータ分析を厳密にやって商品構成に活かしているとのことです。

それにひきかえ出版界はそういった取り組みが遅れていて、書店員の勘で追加発注をするという時代も長かったわけです。もちろん単なる勘ではなく、長年の経験、お客様の感触、店頭での売れ具合など、それこそ五感をフル動員してインプットされた情報を自分なりに分析していたわけですから、山勘などとあなどってはいけないものです。

ただ、その反面、この数年やたらといわれる返品率の問題。売れない本を大量に抱えてしまっている書店現場の状況というのも、データ分析がされてこなかったことのツケなのかもしれません。

POSレジのお陰なのかどうかわかりませんが、この数年の書店さんからの発注は、新刊時も追加の時もどちらもですが、昔に比べるとずいぶん控えめになったという気がします。いや、これは気がするのではなく、実際に起こっていることです。

最初からドーンと山積みするのではなく、まずは様子を見られる程度の冊数を注文し、売れたら、売れそうだと判断したら追加発注しようという流れになっています。

これは基本的には正しい方法だと思います。もちろん最初から売れそうだという判断の下、大量に注文し、店頭の目立つところで大きく展開する、いわゆる仕掛け販売も、売行きを大きく左右する面は確かにあります。ただ、売れそうだという判断の前提となるものが、これまでのように勘に頼るのではなく、POSレジによって蓄積されたデータが重きを増すようになってきたという違いはありますが。

で、それはそうと、出版社からすると、POSレジ化が進むことによって、本当に売れている書店と売れていない書店がわかるようになります。ここには書店員の方のやる気や熱意といった情が入り込まない、極めてドライな世界です。これまで売れているように思っていた書店で数冊しか売れていなかった、小さなお店なのにもうこれだけ売ってくれている、そんなことがわかってしまいます。

もちろん、このデータには不十分なところもたくさんあり、入荷数がわかりません。あくまで売れた数だけがわかるのです。同じ3冊売った書店でも、5冊入荷した店と10冊入荷したお店では消化率が全然異なります。もちろん、出版社側の出荷記録を追うことで、あの店には何冊出ている、この店にはこれだけだ、という推定をすることはできます。ただ、書店の多くは取次の倉庫にある在庫を仕入れたりすることも多いので、出版社の出庫記録に載らない分も相当数あると思われます。どのくらいを出版社側が把握できているのか、ちょっとすぐにはわかりませんが、まあそれなりには把握できているのかな、といううっすらとした感触です。

さて、そういう風に実際の売れ数が見えたりしますと、こんな風に思うことがあります。

こんなに売れているのに、追加発注しているのかな? 少なくともこちらには電話やファクスで注文は来ていないけど……

もちろん、気づいた時には、よく知っているお店であれば連絡をしたり訪ねていったりして追加発注を勧めてみますが、これも十全にできるわけではありません。その他

入荷してまだ大して時間がたっていないはずなのに、すぐに返品している(返品依頼の連絡が来る)のはなんでなのだろう……

と感じることもあります。そのお店には合わない本が配本された、入荷したということはあると思いますが、そんなにすぐに返品してしまってよいのでしょうか? 大手出版社の話題の本ならいざ知らず、あたしの勤務先の本など、刊行されて二か月や三か月たってようやく書評などで紹介され売行きが伸びてくる、なんていう本がたくさんあります。むしろ、そんな本ばかりです。そういう性格の本を出している出版社ってかなり多いと思いますが、その書評が出るのではないかなと待つ期間を辛抱せず、さっさと返品してしまうなんて、どういう判断なのだろうと考えてしまいます。

「うちはお宅の本を買うようなお客様はいません」という判断なのであれば、もう配本はしないでと、出版社や取次に要請すればよいのではないかと思いますが、そこまでやっているような書店はほとんどないようです。本が多すぎてとても全部は並べられない、というのが根本的な原因なのでしょうね。これは出版社側に大きな責任がありますね。

それにしても、書店員さんがしっかり一冊一冊の本に向き合えないような状態では、どうやって本の良さをお客様にアピールできるのでしょうか? そう思います。

だからでしょうか。店頭でのアピールよりも、Twitterやブログ、Facebookなどでちょっと話題になったりするだけで売れてしまうような現象が起きるのは。