白水Uブックス『第三の魔弾』読了。
正直なところ、最初は物語に入っていけませんでした。状況や世界が飲み込めなくて、とりあえず誰かが昔語りをしているのかな、ということくらいしかわからず、それもわかるようなわからないような、つまり一体全体何のことを語っているのか、という感じだったのです。
でも、そんな導入部を過ぎて本編に入り、二つか三つ目の章に入ると俄然面白くなってきます。グイグイ引っ張られます。さあ、どうなるだ、どうなっちゃうんだ、という期待感で先へ先へと導かれます。
さて、ネタバレになるかも知れませんが、簡単にストーリーをおさらいしておきますと、かつてライン伯であった暴れん坊グルムバッハは故国ドイツを追われ新大陸へ渡ります。そこで自分を慕う部下たち共にアステカの国王の庇護を受けのんびりと暮らしています。そこへスペイン国王の命を受けた征服者コルテスが現われ、情け容赦なくインディオたちを殺戮していきます。コルテスの軍中にはグルムバッハの異母弟であるメンドーサもいて、各者各様の事情を抱えながら戦うことになります。
しかし多勢に無勢、グルムバッハがコルテス軍を撃退するために手に入れたものは小銃と呪われた三発の弾丸。たった三発の弾丸だけを頼りに、グルムバッハは無敵のスペイン軍に戦いを挑むのです。さあ、その結末は?
このように書くと、さも英雄然としたグルムバッハと、憎々しげなコルテスやメンドーサをイメージしがちですが、そう簡単ではありません。グルムバッハは英雄らしくないところがたくさんあり、なんかグズグズしていることがあります。一方のコルテスやメンドーサの方がむしろ颯爽としていると思えるところがあるのです。
呪いでは、一発目の弾丸でスペインの無敵軍を敗走させ、二発目の弾丸で大切な女性を失い、三つ目の弾丸で自分自身に(何かが起こる?)と予言されたわけですが、作品中では三発目の弾丸が放たれてどうなったか、はっきりとは書いていません。その後がどうなったのかは読者がそれぞれ思い思いのストーリーを作ってよいのではないでしょうか? 少なくとも、その後もグルムバッハは生きています。最後まで読んだあと、もう一度導入部に戻ると、上に書いたような「わからなさ」もかなり解けると思います。そして訳者による解説も、先に読んでしまうと本編のワクワク感を少しそいでしまうかも知れません。
ペレッツ、あたしは今回初めて知りましたし読んだのですが、それなりに邦訳が出ているのですね。
『スウェーデンの騎士』『最後の審判の巨匠』『夜毎に石の橋の下で』『ボリバル侯爵』『レオナルドのユダ』『ウィーン五月の夜』がまだ手に入るようですが、主要著作はほぼ網羅されているのではないでしょうか? そんなに日本で人気の作家だったのですね。