大観園

青山ブックセンターでのイベント。磯崎新さんと福嶋亮太さんとの、中国のテーマパークに関するトークでした。

福嶋さんが用意されていたレジュメによれば、あえてテーマパークということで歴史を遡れば、それは始皇帝陵の地下宮殿になるのではないかとの指摘はなかなか面白いものでした。観客は誰一人いないテーマパーク、それはこの世界をそのまま地下に再現したものであるわけですが、そういった皇帝の権力の強さ(あの世をも支配しているぞ!)を見せつけるためであれば、あえて地下に作らなくてもよいのでは? むしろ地上に作って、誰にでも見える形にしてもよかったのではないか、という気もします。

が、あの世は地下深くにある、というのが当時の通念だったでしょうから、生きている人たちが簡単に視られるような状態では「あの世を支配している」とは思われなくなってしまう恐れもあったでしょう。しかし、不老長生を願った始皇帝が死後の世界を支配するために(それは多分に死に対する恐怖の裏返しだと思いますが)あれだけの地下宮殿、地下のテーマパークを作ってしまうというのはなんとも皮肉なものです。

翻って、現代の天安門広場。そこには毛沢東が衆人環視の中で眠っています。これはレーニンに倣ったものだと思いますが、死後に墓を暴かれることを恐れる中国の伝統の中ではきわめて珍しい例だと思います。ただ、逆にこのようにオープンにすることによって却って荒らされるのを防ぐという予防的な面があるのかもしれません。

さて、本題の「紅楼夢」の大観園。

磯崎さんのお話では中国の南京郊外に「紅楼夢」のテーマパーク「大観園」を建設中なのだとか。作者・曹雪芹の故郷が南京ですから、地元の有名人にあやかって観光施設を作るのはどこの国でも王道でしょう。「紅楼夢」の物語の舞台となる大邸宅・大観園。日本で言えば「源氏物語」の舞台「六条院」と言ったところでしょうか。この大観園を舞台に貴公子・賈宝玉と女性たちの生活が営まれるわけですが、あたしの知る限り、大観園は中国には既にあります。行ったことはないのですが北京と上海にあったはずです(今もあるかは不明)。北京は市街からちょっと外れたところ、上海はかなり郊外にあったと記憶していますが、どちらも20年近く前、初めて中国を訪れたころの知識なので、両都市とも市街地が広がった現在では、案外都心に近いところにあると言えるのかも知れません。

それはともかく、北京と上海の大観園は、どちらかは忘れましたが、中国のテレビドラマ「紅楼夢」の撮影セットをそのまま観光施設にしたところだと聞きました。ちなみに最近も「紅楼夢」はドラマ化されているようで、スカパー!でも放送されています。この紅楼夢は2010年制作とありますので、北京や上海の大観園で撮影を行なったという「紅楼夢」とは異なるのだと思いますが、これも撮影ではそこを使っているのではないでしょうか?

で、南京の大観園。いつごろ出来上がるのでしょう? 電子書籍版の「紅楼夢」は完成したという話でしたが、やはりテーマパーク的なものは時間も経費もかかりますから、そう簡単ではないのでしょうか?

再び福嶋さんのレジュメに戻りますと、その中に谷崎潤一郎の神戸岡本の邸宅「鎖瀾閣」が中国風の楼閣、和洋中の折衷的な建物であったとあります。谷崎は訪中もしていますから、中国理解はそれなりのものがあったと思いますが、この「鎖瀾閣」には当時まだ焼失していなかったはずの「二楽荘」の影響はないのだろうか、そんなことも思いながら、トークを聞いておりました。