こんな西洋哲学史の本はないものか?

西洋哲学史の大まかな流れというのは押さえているつもりなのですが、それでもせいぜい高校の倫理社会の授業で習ったことに多少の毛が生えた程度。知っているなどと言えたような知識は持っていないのですが、興味だけはあります。だから、分厚い本格的なものは歯が立ちませんが、文庫とか新書レベルの哲学史の本は、たまには読むようにしています。

が、部分的には理解できても、全体としてはさっぱり。何を言っているのかわからない、というよりも、何を言いたいのか理解できないというレベル。そして、なんでそんなことにこだわっているのか、いや、そもそも何にこだわっているの(?)というレベルであったりします。

例えば、人間はどこまでのことを認識できるのか、とか、果たして実在するものは何なのか、といった、いかにも哲学的な問い。そういう質問自体はわかるのですが、それを知ってなんとする、それがわかったからといって、何か世の中がよくなるわけ(?)、そういう気がしてしまうのです。

それは立ち位置が違うと言ってしまえば身も蓋もありませんが、あたしのように中国思想を学んできた者にとっては、なんでそんなことを考えるのか、理解に苦しむところでもあります。もちろん中国思想がそういうことを考えないというわけではありません。魏晋玄学以降、仏教が入ってきてからは中国思想もかなり形而上学的な思惟が発達したと言われますが、そして確かにその通りではありますが、あたしのように古代思想を主に学んできた者からすると、それが経世済民の役に立つのか、という風に思ってしまうのです。つまり、生活や社会に役に立たないことを考えたって意味がない、という感じでしょうか。

中国思想と言いますか、中国的なものの考え方の典型だなと、あたしが思うのは「衣食足りて礼節を知る」という句です。物質的な満足が得られれば、道徳的な面での向上も自然と行なわれる。こんな打算的というか現実的な考えを既に紀元前200年から300年くらいの頃に言っていた中国人にとって、神が存在するのか、とか、人の理性の及ぶ範囲とか、そんなのはバカバカしいことこの上ないものと感じられたのではないでしょうか?

ただ、どちらが良い悪いという問題ではなく、それが歴史的に背負ってしまった両者の違いなんだと思います。だから、やはり中国思想の影響下に歴史をくぐり抜けてきた日本人には西洋的な思惟は取っ付きにくいのではないかと思います。そういう目で現在の西洋哲学史入門的な本を開くと、たいていのものがソクラテスなどの古代ギリシアに始まって、ハイデガーやサルトルあたりで終わっているのが普通だと思います。

歴史に沿っていろいろな哲学者の名前、その主著、そして思想内容が語られるわけですが、正直言って「だから何?」という感じなのです。そういう人中心の哲学史ではなく、社会に基づいた哲学史の本ってないものでしょうか? つまり、古代ギリシアはこういう社会であって、人びとはこういう状況下にあったので、こういう考え方が発達してきた。それを突き詰めたのがソクラテスです。といった感じで、なぜそういう哲学が生まれたのかを社会や時代に沿って解説してくれる西洋哲学史の本です。

なので、むしろ中世の神学の方が、時代相と密接に関わるのでわかりやすかったりしますが、その後、カントとかヘーゲル、それぞれの哲学もあたしには難解ですが、なんでカントはそういうことを考えるに至ったのか、そういった視点からの哲学史の本です。

寡聞にして、あたしはそういったタイプの哲学史の本を知りません。誰かご教示いただければ幸いです。