翻訳文学について考えたこと

昨夜の日本翻訳大賞授賞式に参加して、まずは選考委員の方が指摘していたように、最終選考に残ったノミネート作品に英語圏の作品が半分ほどしかなかったことに驚きました。それは裏を返せば、英語圏に偏らない、日本の翻訳文学界の広がりを示すものだと思います。海外文学を刊行している出版社の一員として、そんなことに少しは関わりを持てているのかな、と思うと少しは嬉しくなります。

英語圏以外の作品がどんどん日本語に翻訳されているだけでなく、この数年、いや十年くらいのことでしょうか、既にかなり前に一度訳された作品が新訳として再び刊行される、いわゆる新訳ブームも続いているように感じられます。いまの読者に合わせて文体も変えて読みやすく、というのは翻訳文学をさらに広めるのに大切なことだと思います。どんなに名作と言われようと、日本が古めかしく、既に古文のように感じられる翻訳では、やはり今の読者は読んでくれないでしょう。

ところで、昨晩の授賞式会場はほぼ満席という盛況ぶりでしたが、書店における海外文学の売り上げはあまり芳しいものではありません。いや、全く売れていないといえば嘘になります。それなりには売れています。昨夜会場に参集した面々は、日常的に海外文学を買っているし読んでいるし接している人たちだと思いますので、そういう中で語らうぶんには「海外文学、盛り上がっているよね」となりがちですが、そんな世界から一歩外へ出るとちょっぴり寒々とした現実が待っています。

でも面白い作品だったら、本好きの人は読んでくれるはず。たぶん海外文学を読まない人の多くは食わず嫌いならぬ、読まず嫌いなんだと思います。だったら、「海外文学ってこんなに美味しい、否、面白いんだよ」ということを少しでも広める活動が肝心なわけで、昨夜のような試みが更に盛り上がって、海外文学に関心を持ってくれる人が一人でも増えれば、と思います。

  

そういう意味でも、自分の勤務先の本が選ばれたから言うのではありませんが、まずは『エウロペアナ』でも『カステラ』でも『ストーナー』でもいいです、一流の翻訳家の方、そして読者によって選ばれた今回のノミネート作品はどれをとっても外れのない作品ばかりですから、まずは一冊手に取ってもらいたいと思います。ジャケ買いで構いません。

幸い、少なくともうちの本に関しては書店からの注文が殺到しています。たぶん、こういう機会に少しでも海外文学に関心を持ってくれる人を増やしたいと思っている書店員さんが多いことの表われでしょう。嬉しいことです。来年以降にも期待したいところです。そして翻訳部門があるとはいえ、日本の作品の賞というイメージの強い本屋大賞と並ぶような大きな賞に育っていったら嬉しいなあ、と思います。