今年も取らないで!

今年もノーベル賞の季節です。とりえず、医学・生理学賞では日本人は受賞が無かったですが、物理学賞で見事受賞したというのが現時点での状況です。

さて、あたしの属する出版業界では文学賞だけが注文されがちです。まあ、本を売っている商売ですから文学賞に一番注目が集まるのはしょうがないでしょうし、当然と言えば当然ですね。ただ、他の分野の賞でも、それに関係する書籍というのはあるもので、特に経済学賞などは受賞者の著作が売れるという傾向もありますので、一概に文学賞だけを追っていたのではいけない場合もあります。

で、文学賞です。

毎年のように村上春樹が候補に挙がり、大本命とも言われています。正直なところ、あたし自身は興味はありません。書店では「村上春樹コーナー」が作られ著訳書が並べられてそれなりに盛り上がっていますが、受賞を逃すといつのまにやら終息しています。

書店の方に話を聞くと、やはり話題になるこの時期、村上春樹の本はそれなりに売れるそうです。もしノーベル賞を受賞すればさらに売り上げのアップが期待できるので、やはり取って欲しい、という声も聞かれます。もちろん、村上春樹に限らず日本人の受賞は嬉しいニュースとして、なんとなく世間も明るくなるものです。

その一方、書店員さんの中には、受賞しても売り上げ増はそれほど見込めない、と言う方もいます。その理由は、既に散々売れているから、いまさらノーベル賞を取ったからといって村上春樹に手を伸ばす人がどれくらいいるのか、と懐疑的なのです。確かに、それは事実だと思います。日本人の受賞だったらどうなるかわかりませんが、この数年来、ノーベル賞受賞者の書籍、それなりに日本でも邦訳が出ていたりしますが、受賞を機にどれだけ売れたかと言うと、手放しで喜べるほどだったでしょうか?

それでも去年は新潮のクレストがかなり売れましたかね? 手を伸ばそうか迷っていた人がこの機に遂に購入したというケースが多数あったようです。でも、その前の莫言はどうだったでしょうか? それほど売れたような記憶はありません。やはり海外小説は、たとえノーベル賞を取ったとしても、それだけで売れるのかというと難しいものがあります。

で、村上春樹は、当然のことながら国内作家です。海外小説と同列には論じられません。それでも、ここ最近の新刊が出るたびのフィーバーを見ると期待したくもなります。ただ、「1Q84」や「ノルウェーの森」の時のような「猫も杓子も」買いに奔る現象が既に起こっている作家ですので、ノーベル賞を取ったから読んでみようという一般の人がどの程度残っているのか、そこが読み切れないところです。

あたしの個人的な意見としては、こうして毎年候補に挙がり、書店でコーナーが作られて、それなりに注目を引き、本がそこそこ売れるというのがずーっと続いてくれるのが一番「オイシイ」のではないかと思います。そのためにも、毎年候補には挙がるけど受賞しない、というのが理想です。