孫文という人は……

もうだいぶ前にNHKで放送された「シリーズ 辛亥革命100年」全3回をHDDに録っておいたのですが、それをDVDに焼きました。その時、録画モードなどの関係で高速ダビングができなかったので、何気なくその番組を見ておりました。第一回が孫文、第二回が溥儀、第三回が蒋介石という放送で、孫文の回を見ながらダビング作業をしました。

孫文は台湾でも中国でも国父として仰がれ、国共両方から尊敬されている人物として稀な存在です。ただ、最近はそれほどの聖人君子だったのか、革命の理想に燃える好漢だったのか、疑問を呈する論評なども増えてきていると感じます。例えば『覇王と革命 中国軍閥史1915-28』などでも当時の軍閥たちと比べて格段に優れた人物だとは描かれていません。むしろ人物としては数段劣っていたのではないかと思われるような印象すら受けます。

個人的には、たぶん大言壮語癖があり、何かを思い定めたら他のことには一切関心がなくなって猪突猛進してしまう、周囲の人間から見たらはなはだ迷惑な人物だったと思います。人間の器としてもそれほど大きかったという感じはしませんが、当時の軍閥の中では格段に弁が立ち、未来への情熱が一頭抜きんでていたことは確かだと思います。

もちろん、上に器のことを書きましたが、犬養毅をはじめ多くの日本人、中国人が助力したように、ひとかどの器であったことは確かで、人間的な魅力も相当なものがあったと思います。ただ、途中で離れて行ってしまった人たちも大勢いたわけで、そういう人には孫文の欠点が目に留まったのでしょうし、多くの人がやられた魅力から、魔法が解けたように、ふっと冷めてしまったのではないかと思います。

もし癌で死んでいなければ、もう少し長生きしていたら、もしかすると革命勢力が孫文によって引っかき回されてしまっていたのではないかという危惧も覚えます。なかなか台湾や大陸の研究者ではそこまで孫文を悪く見ることは難しいのかもしれませんが、そろそろ客観的な歴史の評価が出てきてもよいのではないかと思います。あと、時代が異なるから仕方ないのかもしれませんが、孫文は医術を捨てて革命へと進み、魯迅は同じく医術を捨てて文学の道を選んだ、この二人の救国の手段の差について比較研究ってなかったでしょうか?