痴漢かしら?

久しぶりに井の頭線に乗りました。

吉祥寺で乗ってドア付近の、シートの端の席に座り本を読み始め、しばらくすると一人の女性があたしの隣に座りました。座席は埋まりつつあり、あたしの隣の席の、さらに隣には既に別の女性が座っていて、その女性は一つぽっかりと空いていた、あたしの隣の席に腰を下ろしたわけです。

このこと自体は別にどうということはありませんが、その女性の態度がなんとなくおかしいのです。その女性のすぐ後に男性が歩いていて、女性が座ると自分もそのそばに座ろうかという勢いだったのです。てっきりあたしはその二人が連れなのかと思いました。カップルなのか夫婦なのかはわかりませんが、とにかく二人一緒なのだろうと最初は思ったのです。

ただ、その刹那、妙な違和感を覚えました。後から歩いてきた男性はチェッという感じで周囲を徘徊、結局どこにも座ることなくその場から離れ、女性の方もその男性を気遣う風でもなかったのです。最初に感じた違和感、そう、それは連れと言うよりも、その女性があの男性に追われていて、その男性から逃げてきたという感じなのです。この推測が正解なのか確かめるすべはありませんが、少なくともその時点で二人並んで座れる場所は車内にまだ残っていたわけで、二人が連れであるならばそちらに座ればよかったのでしょうけど、あえて一つだけ空いていたどころにわざわざ入り込んできたという座り方でした。つまり、その女性にとっては、右だろうと左だろうと、あの男性が隣に座ることのないような場所に腰を落ち着けたかったのではないかと思います。

その後女性は俯いて寝てしまったのか、寝ているふりをしていたのか、とにかく顔を上げずにいました。あたしもずっと本を読んでいたので気にしていませんでしたが、しばらくすると隣の女性があたしにもたれかかってきました。あら、本当に寝てしまったのかしら、という感じでしたが、あたしもそろそろ下りる駅がちが付いてきたので顔を上げたら、なんとあの男性が比較的近いところに立っているではありませんか。

既に座席は埋まっていますから、車内には立っている人が何人もいます。ただ、あたしが後者のために席を立ったら、間違いなくその男性があたしの座っていた席、つまり例の女性の隣の席に座りそうな様子です。そして現実にそうなりました。

あたしが下りる駅に着いたので席を立つと、その男性が猛然と、という言い方は大袈裟にしても、少なくともあたしの席のすぐ近くに立っていた人があたしの座っていた席に座るのをなんとしても阻止するぞという勢いでやってきて腰を下ろしたのです。あたしの隣で眠りにつき、もたれかかってきた女性が、あたしが席を立ったこと、そしてあの男性が隣に座ったことに気づいたのか、目を覚ましたのか、今となってはわかりません。

すべてがあたしの思い過ごし、勘違い、気のせい、勝手な妄想であってくれればよいのですが、あの男性の目つきとか様子、態度を見ると、あたしの推測が外れているとは思えないのです。痴漢であればその女性も騒ぐでしょうから、もしかするとストーカー的な行為に遭っていたのかもしれないですね。いずれにせよ、あたしは下りる駅を乗り過ごしても、その女性の隣を死守すべきだったのか、あるいは下りる時にさりげなくその女性を起こしてあげるべきだったのか、後味の悪い井の頭線でした。