休日のお楽しみ、映画鑑賞です。今回は「アフターショック」です。
タイトルだけではよくわかりにくいですが、パニックホラーとでも呼ぶのでしょうか。モンスターとか、悪霊とか、殺人鬼とか、そういったものは出てきません。もちろん「悪魔払いもの」でもありません。
簡単にストーリーを紹介しますと、南米チリで女の子のナンパに明け暮れる男性三人が、アメリカから旅行に来た女性三人と知り合います。面白いイベントがあるからとクラブへ誘い、六人で会場へ向かったまではありがちなストーリー。ここで女の子たちは男に騙されていてことがわかり必死にそこから逃げようとする、というのであれば数多の映画の亜流であって、何の面白味もありません。
この映画はここからとんでもない方向へ向かいます。イベントを満喫していた六人ですが、そこに突如、大地震が襲います。建物が崩れるくらいですから、巨大地震と言ってよいでしょう。瓦礫の下敷きになって死者も多数出ています。主人公たちの一人も、他の人を助けようとして却って自分の片手を失うような大けが負います。それでも六人は何とか会場から表へ出ますが、外はパニック状態です。刑務所が被災したということで凶悪な囚人たちも街へ逃げ出し収拾の付かない混乱状態になっています。手首からの出血が止まらない主人公の一人は高台にある病院へ向かうケーブルカーに乗せてもらいますが、無理が祟ってケーブルが切れ、ケーブルカーごと中腹から地面にたたきつけられあえなく死亡。残った男子二人、女子三人は安全な場所を求めて街の中を歩き回りますが、脱走した囚人に見つかります。男だけならまだしも、女連れでは囚人たちから見たら絶好のエサでしかありません。五人は一生懸命逃げます。途中で余震に遭い、男子一人が瓦礫の下敷きになり瀕死の重傷。彼を助けるために惹起などの道具を借りに残る男子一人と女子一人がその場を離れます。下敷きになった男子一人を見守る女子二人。そこへ囚人たちがやってきます。
最初は隠れていたものの、女子の一人がこらえきれずに飛び出して囚人たちに見つかりレイプされます。それを助けようとした瓦礫の下敷きの男子は、なんと生きたまま焼き殺され、囚人たちはもう一人いるはずの女子を探しに散っていきます。そこへ消防士を連れて、道具を借りに行った二人が戻ってきます。レイプを続ける囚人の一人を殺し、女子を連れその場を離れようとしたときに囚人たちが戻ってきて、レイプされた女子が拳銃で撃たれ死亡。この時点で、最初の六人が、男性一人、女性二人(この二人は姉妹)の三人に減っています。それとここから合流した消防士。
この四人で逃げる途中、住民によって閉鎖された街の一角に行き当たり、自分たちは囚人ではないから中に入れて欲しいと頼みますが、疑心暗鬼の住民たちに断わられ、挙げ句の果て、男子一人が銃で撃たれ瀕死の重傷。途中、彼を隠して消防士と女子二人がさらに逃げますが、銃で撃たれた男子は持っていた携帯電話が鳴ったため、負ってきた囚人グループに見つかりあえなく撃ち殺されます。
残る三人は辛くも教会に逃げ込み、地下の抜け道に潜り込みます。教会に囚人たちが突入してきますが、ここでまたしても余震。どうやら教会が崩れ囚人たちは死んだ模様。地下道へ下りる梯子が外れ神父さんも落下して死亡。妹の方も落下しますが、辛くも一命は取り留めますが足に重症を負います。その時、消防士も脱走した囚人だったということが判明し、妹は消防士(ニセ)に殺されます。まだ地下道へ下りていなかった姉は、下でそんなことが起こっているとも知らず、けがを負った妹を心配してなんとか地下道へ下りてきますが、妹がいません。地下道を探すと妹の遺体が見つかります。ショックを受ける姉に消防士が襲いかかります。消防士との死闘を制し、彼を倒した姉が地下道から続く洞窟を抜けるとそこは海。チリですから、たぶん太平洋でしょう。
助かったと、ホッとしたのも束の間、沖の方から巨大な、壁のようにそそり立つ波が迫ってきます。慌てて海岸を離れようと走り出す姉。そこで映画は終わりです。地震の後、街の中を逃げ惑う主人公たちのバックで、公共放送で津波が来るので高いところへ逃げてくださいというアナウンスがしきりと流れていましたが、とうとう襲ってきたというわけです。たぶん、姉も波に飲まれ助からなかったでしょう。結局、主人公とおぼしき六人は全員死んだのです。と言いますか、主人公たちの何らかの関わりを持った人たちはすべて死んでいます。囚人にしろ消防士(ニセ)にしろ神父にしろ。たぶん生き残れたのは、彼らを入れてくれなかったある地区の住民たちだけでしょう。
そういう意味で、この映画は救いがないです。普通は主人公は、特にヒロインは助かるものです。それが結局は全員死んでしまうなんて、まるで希望がありません。そして、なによりも恐ろしいのは、地震でも津波でもありません。こういう状況に陥ったときの人間です。人間のエゴ、残忍さです。この映画が悪魔もモンスターも出てこないのに(人が殺されるシーンは多少グロいですが)、これだけ怖いのは、やはり人間の業を描いているからでしょうか?
とはいえ、この映画を見ると、東日本大震災といい、阪神・淡路大震災といい、日本は本当に素晴らしい国だと思います。もちろん多少の略奪的なことはあったでしょうし、小競り合いやケンカはあったと思いますが、ここまでの無秩序にはならないでしょう。もちろんチリで地震が起きたら、必ずこうなるというわけではないでしょうが、でも世界的にはこういう状況の方がむしろ普通で、日本の方が特殊だったのかもしれません。特にこの映画ではアメリカから遊びに来ていて主人公たちがスペイン語を解さないという、もう一つの不安要素も織り交ぜてあるところが秀逸なのではないでしょうか。