本はどこへ消えた?

ずいぶん前に流行った本のタイトルのようですが、別に自己啓発的な話をしようというわけではありません。仕事をしていて感じることについての話です。

書店に行くと、お店に入って一番目立つところに、本がドーンと積んであることがあります。特に、都会にある数百から一千クラスのや大型店ですと、単行本でも数十冊、文庫や新書になると100をもって数えるほどの本が積んであることが多々あります。もちろん一種類の本の話です。

本屋に入って、一番目立つところに、こんな風に積んであれば、「ああ、この本って売れているんだな」と客に思わせる効果があります。実際、目に付くところに置いてあれば手に取ってもらえる確率も高まり、手に取ってもらえれば、その本を購入してもらえる確率も高まります。ある本が入り口に100冊積んであるのと、その本が棚に一冊だけ置かれているのをそれぞれイメージしてもらえれば、どちらの方が買われる可能性が高いか、一目瞭然だと思います。

あたしもそうですが、刊行から何年たった本でも、初めて本屋でその本を目にしたときに「へぇ、こんな本が出ているんだ」と思ったことが誰にでもあると思います。その時、本の奥付を見て数年前に刊行された本であっても、その時まで自分が知らなかったのであれば、その本は自分にとっては新刊と言えます。そして「面白そうな本だなぁ」と思ったり、「買ってみようかな」と思ったりするのも、その本が目に留まったればこその話です。

ですから、各出版社の営業マンが書店に行って少しでもよい場所に、少しでも多く本を並べてもらおうと努力するのは、至極当然の企業活動です。でも、その一方、並べたからと言って、果たして本当に売れるのでしょうか? そりゃ、1冊だけ棚に置かれていては、それを見つけてくれる人はなかなかいないでしょうけど、目立つところに10冊積んであれば、買ってくれる人もいるでしょう。ただ10冊のうち何冊が売れるのかはわかりませんが。

10冊並べて10冊売れればもちろんサイコーです。でもそんなことは滅多にないです。では、8冊くらいなら売れるでしょうか? これもかなりまれだと思います。では、実際にどれくらい売れているのか? あたしの感覚ですと、たぶん平均すると10冊並べて2冊か3冊ではないかと思います。すると、7冊から8冊は売れ残るということになります。この本はどこへ行ってしまうのでしょうね? もちろん出版社に返品されます。売れなかったからやむを得ません。それが現実です。

で、ここで書店によく行かれる方に思い出して欲しいのは、そういうふうに目立つところに大量に積まれている本、もしあなたが2週間に1度書店に行くとして、次に行ったときも同じところに同じ本が同じように積まれているでしょうか? 大人気のコミックの新刊、ドラマや映画が大ヒットしている原作小説などは一ヶ月くらいは同じように並べられていることもあるでしょう。それこそ村上春樹の新刊でしたら、それくらいの期間を越えて置かれ続けると思います。

でも、多くの場合、数週間もすれば別の本に変わっているはずです。そこで問題です。果たして、前回来たときに積まれていた本はすべて売れてしまったのでしょうか? もしそうだったら書店も出版社も万々歳ですが、実際には上に書いたようにほとんどが売れ残って返品されてしまったと思われます。もちろん、時間がたってもある程度売れる見込みのある商品であれば、全部を返品することはないでしょうが、目立つところに置く本の冊数は減らしているはずです。減らした分は返品されています。

一ヶ月の間、目立つところにドーンと置かれていた本だって、そりゃそれだけ置いていたわけですから、トータルで数百冊は売れたかもしれませんが、一ヶ月近くドーンと積んでおくためには売れたそばから補充もしているはずで、トータルの入荷冊数もかなりの量になると思います。総入荷量と総売上冊数を比べて、果たして儲かったと言えるほどのパーセンテージになっているのか……

お時間があれば、自分がよく使っている書店で、一番目に付くところに大量に置かれていた本が、次に行ったときまで積まれ続けているのか否か、確かめてみては如何でしょうか? あんなに積まれていた本が全部売れてしまい、こんどは別の本を置いているなんてことがどれくらい起こっているのでしょうか? 本がドンドン売れて一、二週間でなくなってしまうようなら「出版不況」なんて言葉は聞かれないはずですから。