死を愛してしまったひと

ようやく読み終わった『不浄の血』から、ちょっと惹かれた文章をご紹介します。

そうね、あたしは墓場に横たわっていたようなものね。墓場に長く暮らしていると、だんだん愛着がわいて、苦じゃなくなってくるのよ。あの人は青酸カリの錠剤をくれたわ。自分でも似たような毒薬を肌身離さず持ってた。奥さんも息子さんも。あたしたちみんな死と隣り合わせに生きてた。ひとには死を愛することができるの。死を愛してしまったひとは、それしかもう愛せなくなってしまう。解放の時がやってきて、あの牢獄から出るようにって言われたけど、出ようなんて気にならなかった。腰が引けて、まるで屠殺場に引きずられていく仔牛みたいだったわ。(P.265)

この暗さ、なんとも言えない重苦しさ。それがこの作家の真骨頂でしょうか?