暮れに『俺の歯の話』を読んでいました。
ストーリー自体は、決して波瀾万丈とか血湧き肉躍るといったものではなく、意外と淡々と進んで行ったなあと感じました。もちろん面白くないというのではなく、ちょっと滑稽で、ちょっぴり物悲しく、そしてとんでもない要素もあって。
むしろ「訳者あとがき」などにもあるように、この作品が作られた背景の方に興味があります。出版に至るまでのいくつかのバージョンや各国語版など、単なる翻訳ではなく、そこから新たに発展して生まれた別のバージョンとも呼ぶべき作品の成長。そこが非常に心を引かれました。
海外小説として読むと、「へえー、こんな作品もあるんだ」という驚きもありますが、オークションなどに興味がある人には更に楽しめる内容なのではないかと思います。そう考えますと、海外文学の棚に置かれるのが王道ですが、美術書・芸術書の棚に置かれても面白いかな、という気がします。そう言えば、かつて『オークションこそわが人生』なんて本を出したこともありました。こちらは小説ではありませんが……
こういう美術界を舞台にした作品ですから、原田マハさんの作品なんかが好きな人には面白く読んでもらえるのではないかという気もします。