こんな女性に逢ってみたい、か?

夢みる人びと』収録の「夢みる人びと」から、こんな一節。

語り手の一人が自分の若い頃の恋物語を語るところです。旅の途中で出逢った女性と恋に落ちてしまった部分です。

君のような詩人たちが使う、涙、心、あこがれ、星々¥などという言葉の意味を私が理解できるようになったのも、こうしていまだに憶えていられるのも、その女のひとのおかげなのだ。そうだ、殊に星々という言葉についてはそう言えるな。ミラ、その女のひとには、星を思わせる風情があったのだよ。そのひととほかの女たちをくらべると、ごみと星空ほどのちがいなのだ。ミラ、君もたぶん、これまで生きてきたあいだに、そういうたぐいの女に出遇ったことがあるだろう。内部から光を放ち、暗闇のなかで輝き、松明のあかりのようにゆらめく女を。(P.107)

すごいべた褒めですね。こんな女性いるのでしょうか? いるならあたしも会ってみたいものです。さらにこの女性との会話を思い出して語るシーンです。

とうとうオララが言った。「いいえ、心はありますわ。でも、それはミラノの小さな白い別荘の庭に埋めてあるの。」
「永久に埋めておくの?」と、私はきいた。
「そう、永久によ。そこはどこよりも美しい場所だから。」
私は嫉妬にかられて、さらにたずねた。「そのミラノの白い別荘には、君の心を永久に引きとめておくようなものがあるというわけ?」
「さあ、わからないわ。もう今はそれほどでもないかもしれない。庭の草取りをする人もいないし、ピアノの調律をする人もいないのだから。誰か知らない人が住んでいるかもね。でも、月が昇れば、月光はあるでしょう。それに、死んだ人たちの魂もあるはず。」(P.111)

いかにも男を手玉に取る女性特有の物言いという感じがしますね。上の引用でご理解いただけると思いますが、主人公が恋した女性の名前がオララ、そしてオララとの恋物語を主人公はミラという人に語って聞かせている、という長い、長いシーンです。

こういう女性って、たぶん男性から見たら、深入りしてはいけないとわかっていながら、どんどんのめり込んでしまい、気づいたときには戻れないところまで来てしまっているのでしょうね。