ハン・ガン『回復する人間』読了。
既に本でもいくつか作品が紹介されているハン・ガンの短篇集です。ヒリヒリとした、胸が締め付けられるような作品世界もあれば、どこか飄々とした雰囲気の作品もあり、統一感は維持しながらもバラエティーに富んだ作品集です。
そんな中、あたしが一番印象に残ったのは「青い石」です。
主人公は女子高生で、クラスメートの家へ遊びに行ったりしているうちに、クラスメートの叔父さんとも親しくなり、いつの間にか淡い恋心を抱いてしまうという、思春期の甘酸っぱい初恋を描いた作品です。大人になった主人公が当時を振り返って語る構成が、そんな甘酸っぱさをより強めているのだと思います。
さて、この作品が一番印象深いのは、設定などいろいろ異なるところはあるのですが、この作品出てくる叔父さんが往年の人気ドラマ「愛してると言ってくれ」に出てくる豊川悦司をイメージさせるからです。豊川悦司は耳の聞こえない画家でしたが、この作品の叔父さんも健康に不安を抱える画家なんです。そのアトリエに若い女性が通うようになり、互いに心を通わせていくというストーリー展開。ハン・ガンが実はこのドラマを知っていたのではないかという疑いを抱かせます。
ちなみに、あえてドラマに引きつけるならば、本作の主人公に当たるのは常盤貴子です。常盤貴子と親しくなるのが気に入らないトヨエツの妹役に矢田亜希子がデビュー作として登場しています。本作ではクラスメートが主人公と叔父さんの仲に影響を与えることはないので矢田亜希子の役柄には当たりませんが、やはりどうしてもそんなイメージを重ねながら読んでしまいました。
なお「訳者あとがき」によると、この短篇はその後著者によって長篇作品に仕立て直されているとのことです。どんな長篇に変わったのか、読みたくてうずうずします。いずれ邦訳が刊行されるのでしょうか?