運命の出逢い?

いま通勤電車の中で読んでいる『ピサへの道』の中で、ちょっと気になった箇所をご紹介します。

二人とも、仮りにもう一度出会うことがあっても決して繰りかえしのきかない、なんとも奇妙な気分でいたというのが真相だろう。相手がなにに心を動かされているのか、お互いなにもわかってはいない。しかもひどく興奮し、気を張りつめて、互いの心がなにか特別な共感で響きあうのを感じたのだ。なかばうつろでいながら、そのくせ妙に醒めて敏感になっていたわしは、じつに身勝手に娘を手にいれた。娘がどこからきたのか、どこへ消えてゆくのかなど考えようともせず、ただこの美しいものを、自分が孤独でいるに耐えない今の今、運命が心優しくもよこしてくれた贈りものとして受けとったのだ。戸外にひろがるこの大都会、パリが送ってきた小さな野育ちの精霊、それがこの娘なのだと思えた。パリという都はどのようなときであれ、思いがけないものを人に恵んでくれる。まさにその恵みが必要な瞬間、この娘をとどけてくれたのだ。娘の側がこちらをどう思ったか、なにを感じていたのか、わしにはなにも言えない。あのときは念頭にも浮かばなかったが、今にして思えば、娘にとってわしもなにかを象徴していたにちがいない。個人としてのわしなど、たぶん存在すらしていなかったのではあるまいか。

 

こんな電気が走ったような出逢い、あるんですかね?