『トラペジウム』に5人目はいるのか?

乃木坂46の高山一実のデビュー作品『トラペジウム』読了。

主人公は高山自身を多少ダブらせているところはあるのかな、という気もします。その主人公が、自分の住む町の東西南北の美少女を集め、アイドルとしてデビューしようとする物語です。

房総半島突端の田舎町に、そうそう都合よく美少女が東西南北にいるものだろうか、という疑問はさておき、見事に見つけて仲良くなった主人公はあの手この手でアイドルになるべく、世間に認知してもらうべく奮闘します。

このあたりのプロセス、アイドルを夢見る中高生には共感を持って読まれるのでしょうか? ただかなり稚拙で杜撰な計画です。とはいえ、そこは小説なので、トントン拍子とは言えないまでも、そこそこ主人公の予定どおりに事は運び、見事に歌手デビューのチャンスをつかむ主人公たち4人組。

が、どうなのでしょう? ここまで主人公のアイドルになりたいという夢のため、そんなことはまるで予想もしていない他の3人が利用されているわけです。主人公は最後まで自分の夢のために仲間を引きずり込んだ、利用したということを打ち明けません。その邪さが、もしかするとよりリアルで本作の魅力になっているのかも知れません。

結局、さあデビューだ、これからアイドル人生が始まる、という土壇場で仲間三人はアイドルになることを望まず、主人公から離れていきます。このあたりからの展開がちょっと速くて、主人公は結局一人で再びアイドルへの夢を追いかけ、それを手に入れたようです。ちょうど作者・高山一実と同い年くらいになっている十年後、四人が再び集まります。そして友人の写真を見に行き、「トラペジウム」というタイトルの作品を眺めて終わります。

なんか、食い足りない気分の残る作品です。いや、よくかけていると思うし、ありがちな仲良し四人組のサクセスストーリーをひとひねりしているところは巧いと思います。

でも、上述したようにアイドルデビューのところからの展開がちょっと速く、そこをもう少し掘り下げてもよかったのかな、主人公はその後どうやってアイドルになれたのか、アイドルへの道を降りた三人がその後どういう人生を歩んだのか、もっと知りたいと思いました。まあ、ここで四者四様の生き様を作品にするのは作者の経験や現在の忙しさからすると無理かも知れません。いい加減連載が長くなってきて、編集部からそろそろまとめてくれと急かされて強引にエンディングに持っていたような印象を受けます。