最近ちょっとガイブンがイイネ!

黄泥街』の受注、止まりません。

大型店などでは10冊単位で追加注文が舞い込みます。

でも、この作品、お涙頂戴の感動作でもなければ、勇気や希望がもらえるような作品でもありません。

でも、かえってそんなところがコアな海外文学ファンには喜ばれているのかも知れません。

その一方、ジャック・ロンドンの『マーティン・イーデン』も売れています。

これだって、いわゆる感動ストーリーというタイプの作品ではありません。ただ、底辺から自分の腕一本、いやペン一本でスターダムにのし上がったマーティンの生き様は勇気や希望を与えてくれるところはあります。その点で言えば、感動作と言えなくもないですし、結末は、あたしにはとても切ないものに感じられました。

こういったガイブンの影に隠れるどころか、堂々と四つに組んで売れているのが温又柔さんのエッセイ『台湾生まれ 日本語育ち』です。

日本人なのか台湾人なのか、そんなアイデンティティーの揺らぎがよく描かれた、エッセイストクラブ賞受賞作。単行本が大ヒットして、その後、在庫僅少、そしてほぼ品切れ状態となり、それでも書店や読者からのリクエストや問い合わせは続き、先頃、その後の三篇を追加してUブックスとして再登場した作品です。

案の定、待ちかねていた読者、単行本を手に入れられなかった方々が殺到しているようです。また三篇追加というのも、単行本を持っている人に対しても「こっちも買っておこう」という気持ちが働いているようです。

こんな風に、ここへ来てちょっと文芸ジャンルに勢いが出て来ました。上に紹介した三作は十人十色ならぬ三冊三色、それぞれ同じ文芸ジャンルとはいえ、かなり傾向の異なる作品です。

それぞれがそれぞれに読者を獲得していて、こちらとしてはとても嬉しい限りです。

そしてまもなく『西欧の東』という新刊が発売になります。

これはブルガリア出身の作家の短篇集ですが、『黄泥街』や『マーティン・イーデン』のような、尖ったところはなく、実に読みやすい作品集です。

両書を読んだ後には、ホッと一息つけると言ったら誤解を招くかも知れませんが、ほのぼのするような作品が読みたいなあという方にはお薦めです。

いや、決してほのぼのという作品というわけではなく、ヨーロッパにおける東西分断だとか、そういった社会に翻弄される人々のささやかな営み、幸せが描かれているのです。

よくもまあ、これだけ短い期間に、バラエティー豊かな海外文学作品が連続して出ているものだと、自分の勤務先ながら感心してしまいます。