本屋と図書館

今朝の朝日新聞に新作映画が劇場公開になると同時にネット配信を始めるという記事が載っていました。

記事を読むと既に実験的に始まっているようですが、基本的に映画はまずは劇場で公開され、その後、DVDやブルーレイなどの発売、レンタルがあり、スカパー!やWOWOWなどの有料放送での放映があり、最後に一般のテレビでの放送という流れだったはずです。映画公開と同時にネット配信などされては映画館に客が来ない、というのがこれまでの常識だったと思いますが、そういった常識は今や崩れ去り、とにかく映画というものをより多くの人に見てもらおうということがまずは肝要ということのようです。

この記事を読むと、あたしは図書館と本屋の関係を思い出します。いま、新しい本が出版されると本屋にも並びますが、図書館にも並びます。図書館の場合、発売から数日のタイムラグがあることもあるようですが、ほぼ発売と同時に並ぶと言ってよいでしょう。人気のある作品の場合、本屋に注文しても、図書館で貸し出し予約をしてもいずれも長いこと待たされるという状況も同じです。

両者の違いは何かと言えば、本屋ではその本をお金を出して購入するのに対し、図書館は無料で貸し出しているという点です。これまで何度も書店の側からは民業圧迫という意見・苦情が出されていました。特に同じ本を何冊も購入している図書館が非難の槍玉に挙がっていたと記憶しています。

それに対し図書館側も税金で運営している以上、市民の希望を叶える義務があると言います。この理屈もわからなくはないですが、個人的には図書館の役割ってもうちょっと違うのでは(?)と思います。もちろん、失われた数十年のせいで家計も苦しいですから、本を買いたくても買えない、だから仕方なく図書館で借りるという人も多いのでしょう。通勤電車の中で図書館の本を読んでいる人の割合がこの十数年確実に上がってきています。最近は文庫や新書まで図書館の本で済ませている人も目に付きます。

それはさておき、出版社から見るとどうなのでしょうか? 正直に言ってしまいますと、図書館は優良なお客様です。時に予算が足りなくて、とか、この本は図書館の蔵書には向いていない、といった理由で返品になることもありますが、多くの場合返品はほとんどなく、出荷すなわち売り上げになります。それに対して書店の場合、出荷した冊数が全部売れるとは限りません。もちろんほとんど売ってくれている本屋もたくさんありますが、売れずに返品される本の数もかなり多量にあります。この返品問題が出版業界の宿痾にもなっているわけですが、とにかく出版社から見て返品がほとんどないという点だけを見れば図書館は最も優遇されるべき顧客であると言ってもよいと思います。

でも個人的には、あくまであたし個人の意見ですが、出版社は図書館に本を納入するのに一定期間待つべきではないかと思っています。本が出版されて本屋に並び、例えば3か月とか6か月は図書館に納入しないというルールを作れないかと思います。これは上述の映画のやり方を見ていて思ったことです。図書館も税金で運営されている以上住民サービスを疎かにできないのはわかります。ですから図書館に納入しないと言っているのではありません。あくまで一定の猶予期間を設けようということです。

ただ、これで果たして本屋の売り上げが上がるようになるのかはわかりません。多少の効果はあると思いますが、劇的な効果が見られるのかどうか、よくわかりません。では半年の猶予期間を設けた場合、図書館は同じような冊数を購入してくれるのか。これもわかりません。新刊だから100冊の注文があったけど半年先なら30冊でいいや、ということになる可能性も大いにあるでしょう。ならば、その差である70冊は確実に本屋の売り上げでカバーできるのか、ここが読み切れません。全体として本離れがますます進むだけの結果になるかもしれません。そうなったら悲劇です。目も当てられません。

そんなことをたまに考えている矢先の今朝の新聞記事です。いろいろと示唆に富んでいると思います。ネット配信では書籍も始まっていますから、状況は映画と似ているところも多々あります。もっと情報収集していろいろ考えたいと思います。