パク・ミンギュさんの作品のもとになっているものとか

洗濯物を干しているのではありません。これでも紀伊國屋書店新宿本店の文芸書コーナーです。晶文社の新刊『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』の特製Tシャツです。著者、パク・ミンギュさんの直筆サイン入りです。先週末のトークイベントで書いていただいたものです。

気づくと、読書芸人で『ピンポン』が取り上げられていたりと、いま韓国文学がちょっとしたブームです。

 

という話はひとまずおき、先週末のパク・ミンギュさんのトークイベントを軽く振り返ってみます。

パクさんは、デビュー作『三美スーパースターズ…』が日本で刊行されることになってとても嬉しいと話されていました。確かに、日本での翻訳の刊行順は韓国での出版順とはずいぶん異なりますからね……

野球をモチーフに韓国社会を活写した本作、どうして野球をテーマにしようとしたのかとの問いには、自分たちは丁度韓国のプロ野球に熱狂した世代だそうで、だから野球をテーマに書きたかったそうです。三美とヘテの2チームが候補として考えていて、後者では光州事件を題材に、面白くも悲しい物語を考えていたそうです。

しかし、そちらではなく三美をテーマに書くことにしたそうで、経済危機の時代、リストラの嵐が吹き荒れ、がむしゃらに働いてきた世代が一日にして職を失う時代を描くことにしたそうです。誠実で勤勉な世代のサラリーマンが国や会社を信じて働いていたのに、一通のメールでリストラされ転落する人生、当日パクさんが勤務していた会社の近所の公園に、そんなリストラされたサラリーマンたちが一日中たむろしていたそうです。その姿を見て、パクさんは一念発起、会社を辞めて作家活動に専念したそうです。

パクさんの子供時代、韓国はまだまだ開発途上国で、軍部独裁時代でした。現在では当然と思われているようなことも当然ではなく、そんな息苦しかった時代を語れる最後の世代が自分たちだ、とのこと。野蛮ではあったけど苛酷な競争はなく、貧しかったけれど皆が助け合っていた時代、そんな時代を描きたかったそうです。

人は苦しいときに、それに耐えられるように何かを発明するもので、当時の韓国人はロマンによって野蛮さに立ち向かっていた、70年代はロマンチックのある時代だった、とはパクさんの弁。

しかし、その後、世の中はよくなっていったけど(経済的には)、競争しないといけない時代になってしまい、ロマンも失われてしまった。学校でも生徒に順位を付けるようになり、軍事教練も行なわれるようになった。だから自分は学校をサボってばかりいたそうです。

とまあ、そんなところが本作、そしてパクさんの創作の原動力のようでした。