総統って誰だ?

新刊の『総統は開戦理由を必要としている』が配本になりました。早いお店ではもう店頭に並んでいるでしょうし、週明けには各地のお店に並ぶだろうと思います。

 

ところで、このタイトルにある「総統」って誰のことかわかりますよね? 店頭ではタイトル(正題)だけでなくサブタイトル(副題)とか、オビの文章とか、いろいろヒントがありますし、そもそも置かれている棚を見れば一目瞭然かと思いますが、ヒトラーのことです。

ヒトラーの「総統」という呼称は、あたしも正確なところは知らないのですが、確かあの当時のドイツには大統領がいたはずですし、単なる首相ではなかったので、ヒトラーにだけ与えられた呼称だったと思います。いや、単に呼称というのではなく役職だったのだと思います。

現在の日本語で「総統」とだけ言えば、十中八九、ヒトラーを指しますが、『蔡英文 新時代の台湾へ』を刊行しているあたしの勤務先的には台湾の蔡英文「総統」も忘れてはならないところです。ついでに言えば、もうじき『蔡英文自伝』なんていうのも刊行予定ですから。

閑話休題。

そうです、この台湾のトップについても、日本語では蒋介石以来、「総統」という呼称が使われていて、管見の及ぶかぎり、「総統」を使うのは台湾のトップとヒトラーくらいだろうと思います。ヒトラーにつきましては上に簡単に触れましたが、台湾の場合は単純に中国語で「総統」と言うので、そのまま同じ漢字だから日本語でも「総統」と言っているわけです。

が、台湾へ行ってみると、アメリカのオバマも「総統」と呼ばれます。つまり中国語の「総統」は「大統領」という意味なのです。となると、同じ漢字だからそのまま「蔡英文総統」と表記し、そのまま「さいえいぶんそうとう」と日本語読みもしていますが、もしきちんと翻訳しようとしたら「ツァイ・インウェン大統領」という表記にすべきなのではないでしょうか? 少なくとも同じ漢字を使っていない他国の元首に対してはこのような措置が執られているはずです。

そこで感じるのは語感です。あまり意識していない日本人が多いのかも知れませんが、台湾のトップに対して「総統」という呼称を使うのは、どうしてもヒトラーとナチスを連想させて、あまりプラスの印象を与えないのではないかということです。それほど「総統」と言えばヒトラーと結びついてしまっているということですが、この際、台湾のトップについては「総統」ではなく、「大統領」という呼称に変えてみては如何かと思う次第です。

もちろん台湾で名称変更が行なわれて、大陸でも使っている「主席」となれば、日本もそのまま「主席」を使うように変わるのでしょうが、台湾が大陸の真似をすることはありえないでしょう。台湾のニュースで、この「総統」という呼称を聞くたびに、あたしは毎度そんな風に思ってしまうのです。

まあ、日中・日台間に関しては「総統」に限らず、同じ漢字なので、翻訳せずに、なんでも漢字のまま使ってしまう傾向があり、あまりにも日本語として通用しているものは別として、果たしてそれでよいのだろうかと思うこともたびたびなのですが……

2017年1月7日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー