文学と政治、政治と文学

昨晩は立川のオリオン書房ノルテ店でトークイベント「政治と文学の狭間で揺れた作家たち」を聞きに行ってきました。演者は山形浩生さんに『ラテンアメリカ文学入門』の著者・寺尾隆吉さん。イベントは山形さんが話題を振り、それに寺尾さんが答えるという感じで進みました。

以下は、手元のメモから。

もともとラテン文学が好きだった山形さんが、辛口なこともしっかり書いている寺尾さんの著作に興味を持たれたことから対談が決まったようです。その寺尾さん、大学で中南米文学を専攻し、初めてラテン文学と出会ったそうです。時期的に日本の出版社からも海外文学の全集やラテン文学のシリーズなどが刊行される時期に重なっていて、作品をいろいろ読んだそうです。卒論をメキシコの革命文学をテーマに書き、ラテン文学に対しては「こんなリアリズムの形があることに衝撃を受けた」そうです。また大統領選でリョサが敗れたこともあり、ラテンアメリカの現実をもっと知りたいと思うようになったそうです。

そんな流れで、リョサやコルタサルなど、山形さんが興味の赴くままに名前を挙げつつ、二人でそれらについて脱線しながら語るという進行。全体としては、キューバ革命などがあり、政治的な時流と文学がうまく重なったのが当時のラテンアメリカであり、ラテン世界に世界の注目が集まっているところへ、マルケスなどの作家が次々と現われたのがブームになった要因であろう、とのこと。当時は社会主義に対する希望や期待に溢れていた時期で、読者も左寄りのものを好み、作家も左寄りの立場を名乗ることが都合がよかった時代で、出版社も左寄りの作家であれば本を出版してやる、という風潮があったそうです。

山形さんは、同書がボルヘスをラテンアメリカ文学の流れに位置づけていることを評価。寺尾さんもサバトのボルヘス論は一読すべきとお勧め。また会場からブラジル文学について質問が出ましたが、寺尾さん曰く、マルケスやリョサに匹敵する作家が出て来なかったこと、やはりポルトガル語という言葉の壁があって、どうしてもラテン文学の中では注目を浴びてこなかったそうです。今後はスペイン語の片手間ではなく、ポルトガル語専門の翻訳家が日本でも育ち、ブラジルの文学が紹介されることを期待したいところです。

最後のまとめ的な話では、現在のラテン文学について。かつてと異なり、現在はラテンの作家たちも欧米化してきていて、欧米に移住している人が多い。中南米に住んでいても金持ちの特権階級的な立場になっている人が多いそうです。また最初から作家を目指す人が多くなってきているのも特徴の一つで、創作教室なども盛んに開かれているようですが、そういうところ出身の作家はいまだ第一線には立っていないのが現状。

またそういった文学作品の受け手である読者も変わってきていて、それなりに生活も豊かになり、軽いものを求めるようになってきているそうです。そうなると、これからはマルケスのようなものは受けないのでしょうか?

山形さんがおっしゃっていましたが、その時代にやりやすい方法というのは必ずしも文学とは限らないのではないか、かつての中南米では、何かを表現するのに文学がもっともふさわしい手段であったわけですが、現在そしてこれからも文学なのか……

とにかく、もっともっとラテン文学が読みたくなる一夜でした。