英語圏の本が一冊もない!

日曜日は青山ブックセンター本店で、月曜日は下北沢の本屋B&Bで、それぞれトークイベント。

日曜日の方は、金原瑞人さんが音頭を取って、天野健太郎さん、斎藤真理子さんを迎えて、台湾と韓国の文学と映画について語るひととき。

 

カステラ』は第一回日本翻訳大賞の受賞作、『歩道橋の魔術師』は第二回日本翻訳大賞の最終選考で最初は大賞に推されていた作品、そんな2作品の訳者を迎えての翻訳文学談義となりましたが、あたしの印象では映画の話の方が多かったと思います。決して興味がないわけではありませんが、あまり見ている方ではないので、タイトルくらいは知っていても内容はチンプンカンプンなので、あたしとしてはちょっと残念でした。

まずは台湾映画、台湾文学について天野さんのお話。

2000年代は台湾映画の暗黒時代で、侯孝賢などは「つまらない」と思われるようになっていたそうです。天野さんが留学した頃がそれに当たっていて、映画で見たような鬱屈した人々をイメージしていたけれど、実際に台湾に来てみると、人々は明るくてよくしゃべるという落差を感じたそうです。映画は娯楽としてはまだまだ重要であったようですが、若者はハリウッド映画を見ていたようで、それ以前の90年代は香港映画が見られていたそうです。

 

そして「海角七号」のヒットが台湾映画暗黒時代の終わり、ニューシネマの呪縛を解いた作品になったようです。天野さんご本人は「藍色夏恋」がよかったととのこと。

続いて斎藤さんによる韓国映画のお話。

斎藤さんの調べによると、日本では88年まで劇場で上映された韓国映画はなかったそうです。80年代までの韓国というと、軍事独裁政権や農協の叔父さんたちが買春ツアーに訪れるというイメージしかなかったような時代だったそうです。当時の韓国国内では、映画館で、本編が始まる前には国歌斉唱があり、時事ニュース(大統領の動向など)の映像が流れ、ようやく映画そのものが始まるというスタイルだったそうです。現在は、日本では年に数十本の韓国映画が上映されるようになり、まさに隔世の感があるとのこと。

そして斎藤さんのお薦めが「殺人の追憶」だそうです。この映画を見て、韓国映画に対する見方が変わったそうです。韓国映画は、やはりアクション、悪く言えば暴力、かなりグロテスクなシーンも多い印象を受けますが、そういう映画の他にも恋愛ものなども盛んに作られているのが現状だそうです。

さて、文学についてですが、台湾文学は寡作な作家が多く、作品ごとにガラッと作風を変えてしまうことも多々あり、そういった事情からジャンルがなかなか成熟せず、シリーズものも生まれにくいそうです。一方、韓国文学は40代前後からさらに若い世代に面白い作家が育ってきていて、天下国家を論じるのではない作品が多くなってきたそうです。

台湾、韓国どちらも以前から日本での翻訳は刊行されていたけれど、古典的名作といった感じのものが多く、なかなか日本では浸透してこなかったけれど、最近になって数も増え、日本人にも楽しめる作品が増えてきているようです。それは、あたしにとっても嬉しいことです。

ついで、月曜日のB&B。

こちらはボラーニョの『第三帝国』刊行記念のトークイベント。訳者の柳原孝敦さんと米光一成さんが登壇。なにせ、同書の後半は往年の名作シミュレーションゲーム「第三帝国」を主人公がやり続けるという内容なので、ゲームデザイナーである米光さんがゲームというものについて熱く語ってくださいました。

ウォーゲームと呼ばれるこのゲーム。現在ではコンピューターゲームに押されて退潮気味なのでしょうけど、小説の世界である1987年頃はまだまだ盛況だったはず。大会なども開かれていたのは事実で、米光さんの話によると、この手のゲーマーには現役の軍人がかなり多く含まれていたそうです。戦国武将が将棋を愛好したように、ウォーゲームで実際の戦争をシミュレーションしていたのでしょう。

そして、そんなゲームばかりをしていると、実際に戦力を動かしてみたくなるというのも道理。あくまでゲームの中だけでならよいのですが、本当に戦争を起こされたら、たまったものではありませんね。