先進国へ向かうのか、それとも戦前の日本なのか?

読了した『中国経済はどこまで崩壊するのか』で、個人的に共感したのは次の箇所です。

第2章で言及したように、中国が実質一〇%超の高成長局面に戻ることはできないだろう。だが、変動相場制へ移行して、経済政策を含め、経済活動の自由度をより高めることによって、一人当たりのGDPが二万ドル超の「高所得国」への道が開けるのではないかと考えているのだ。また、より経済活動の自由化を高めることによって、国民生活の向上が実現すれば、中国共産党の一党独裁体制が大きく揺らぐこともないのではないか、と政治的にも楽観的にみている。問題は、政治的に中国共産党政権がそれを許容できるかどうか、である。(P.78)

という部分です。ある程度の格差はやむを得ないとして、特権階級の特権を取り上げ、庶民に及ぶ国民生活の向上が図れれば、共産党の体制は覆らないのではないか、とあたしも思っています。ただし、最後に「できるかどうか」とあるように、共産党の覚悟、そこが鍵だと思っています。

さらに

このように考えると、繰り返しになるが、中国の政策当局はなるべく早く、人民元の変動相場制への移行、ある程度の対外開放を実現して一人当たりのGDPを安定的に増加させ、「中所得国の罠」を回避する政策がベストではないかと考える。「対外開放を行なうと、中国共産党一党独裁体制が揺らぐのではないか」という懸念が生じるかもしれないが、経済政策運営を比較的うまく行なえば、そして国全体のGDPの水準よりも、一人当たりのGDPという国民一人ひとりの生活水準を重視した経済政策運営を実施し、ある程度の成功を収めれば、体制を大きく揺るがすような政治危機は起こらないのではないか。(P.172)

と再び提言を行なっていますが、やはり取り得る道はこれではないでしょうか?

ただ、著者は経済分析の中で、現在の中国が戦前の日本と似ているところがあるとも指摘しています。戦前の日本は軍部の暴走を政治家が抑えきれなかったところに問題があったわけですから、現在の中国に置き換えて見ると、人民解放軍を習近平がしっかり把握できているのか、ということがキーポイントでしょう。

となると、昨今の東シナ海や南シナ海での武力による拡張的な行動も、どの程度習近平の意志なのか。現場の暴走を追認しているだけなのか。そこが気になります。やってしまった以上、中央としては「すみません」というセリフは口が裂けても言えないでしょうし、中華民族復興の夢を掲げる現政権にとって、領土を取り戻すのは悲願でもありますから、正面切っての批判はしにくいでしょう。それをよいことに解放軍がどんどん暴走したら……

一般に、習近平は江沢民派の軍幹部を更迭し、かなりの程度影響力を行使できるようになったと言われていますが、果たして、本当のところはどうなのでしょうか? やはり中国の鍵を握るのは軍、武力なんですね。

2016年6月17日 | カテゴリー : 罔殆庵博客 | 投稿者 : 染井吉野 ナンシー